すずかぜクラス 研究の2月
「……あのぉ、羽黒さん?」
「はい、何でしょうか」
「いや、何でしょうかじゃなくて。……なにこれ?」
「これは、脳波計測装置ですよ」
「…まあ、ヘルメットの形しているからね。そりゃそうだろうなぁとは思っていたけれど。でも、違うんだよ。私が聞いているのはそこじゃない」
「そうでしたか。では、どこでしょう」
「どうして、君が私の脳波を測るのかということだよ。この状況についての、説明が欲しいんだよ」
歴代最高ともいわれているほど降り積もる雪が、道路にしぶとく生き残り、凍っている2月も半ば。やれ入試だ、やれバレンタインだなどと、大人も子供も忙しい時期へと傾く。
私は、授業が終わった瞬間に、両手両足をがんじがらめに拘束され、近くの椅子へと座らされ、こうして実験台にされているのだ。
「大丈夫です。すぐに終わりますよ」
楽しそうに、かつ真剣なまなざしで脳波のグラフを見つめているのは、羽黒結だ。
「ならいいけれども」
頭を働かせて、この子の真の目的を捜索する。
ええと、こいつは、私の脳波を見ることで何かしらの利益を獲得している。
そして、羽黒は最近いつも授業に集中せず、計算ばかりしている。
「ふうん」
「どうかされましたか」
「もしかして、この前言っていた作戦とやらかなぁと思って」
「ばれてしまいましたか。まあ、隠しているつもりもありませんから、正直に言いましょう」
「ちゃんとした理由を言ってよ?」
「あなたのコピーを作って、携帯の中に入れるんですよ」
「というと、となると、どういうことなんだい?」
「人間になって、友達のことを忘れてしまっても、携帯の中にいればそばにいられるでしょ?」
「ああ、そういうこと」
「まずは手始めに、毒味役ということで、先生に頼んだんです」
「まあ、頼まれてはいないんだけどね」
「さあ、終わりましたよ。このデータを、大学教授に伝えれば、あとは待つのみです」
「…大学教授って、当てがいるの?」
私には、友達と呼べる人間がそこまでいるわけではないが、もしかすると今の子供たちは、年代に関係なく友好関係を結べるのだろうか。
「有効な手段は、ないですよ」
あははっと笑い、装置を片づけ始めた。
「じゃあ、どうやって届けるのさ」
「知りませんか?この人ですよ」
ササっと携帯を取り出し、慣れた手つきで検索し、そのサイトを私の方に提示した。
「…辛巳乙未?」
「そうです。彼女は、仲人事業を軸に、わずか14歳ながらビジネスを成功させたんですよ」
「へえ」
「まあ、知ったのは蝉垳さんの紹介なんですけどね」
「身元の照会をしてほしいけれど、まあ、そこまで哨戒することもないしね。そうか、そんな友達がいたとは」
「私だって、命がけでやればできるんですよ」
「命がけじゃないとできない時点で、やめた方が良かったのでは…?」
「まあ、いいじゃないですか。それくらい、先生と一緒にいたいんです」
恥ずかしいので、言わせないでくださいよ。と、呟いた。
「ごめんごめん」
「…良かったら、一緒に行きますか?近くの喫茶店で落ち合うことになっているんです」
「…まあ、教授に悪いところはないんだろうけど、一応念のため、行こうかな」
「じゃあ、行きましょう」
学校の仕事もそこそこに、私達はその近くの喫茶店へと向かった。
道中はとても寒く、マフラーと手袋は必須だった。
「…寒っ」
羽黒はそういった厚着は一切せず、制服をしっかりと着崩すことなく着用していた。
「一応ルールだし。さすがだとは思うけど、上着は別に着てもいいんだからね?」
「上着を着たら、負けかなって」
「半袖短パン少年かよ」
気付くと、喫茶店の前まで来ていた。
「あれ、ここって?」
「知っていましたか?」
「ええ、ああ、うん」
確実に、神那ちゃんの喫茶店だ…
「じゃあ、入ろう」
「はい」
入るとすでに、女子中学生と渋い感じのおじさんが、コーヒーを飲んでいた。
「あ、どもっす。羽黒さん」
「ああ、こんにちは。羽黒さんと…?」
「涼風です」
「そうですか、宜しくお願いします」
「じゃあ、さっそくこのデータを」
「羽黒さん、ありがとうございます」
「いいえ、今度こそ成功できるはずです」
「今度こそ、成功させましょう」
「はい!」
私には、全然わからなかったけど、何より成功するため、頑張ってほしいと思った。




