すずかぜクラス 夫婦の11月
「神!いつ結婚するのかにゃ?」
風の冷たさは、次第に痛みへと変化している今日この頃。隙間風は私たちの体をひどく冷やし、心までもが冷淡さをひそめるようになる。
誰かの台詞に熱くなることは無く、やる気という名の花は見事なまでに枯れていき、誰かの情熱を疎ましく、鬱陶しく感じるような季節へと、私達の街も辿り着いた。
身も心も暖まる春が過ぎ、ノリと勢いだけで生活していた夏を結ぶ際の、そのつけとやらが今この日に回ってきている。
寒いという感情を前面に出すのさえ面倒に感じるこの時期の為、生徒の冷やかしには何とも反応できない。というか、反応したくないというのが私の心中である。
「おいおいね」
「そうにゃのか~、てっきりあの薮坂とかいう人が、意中の人にゃのかと思っていたのだけどにゃ」
「…薮坂?はあ⁈」
ベランダで缶コーヒーを手にしながらたそがれている私の肩をポンポンと叩いた蝉垳の方を見ると、そこには大き目の段ボールを抱えた足助君と神那ちゃんがそこにいた。
…そこに、いた?
「ねえ、何でいるの?」
「あ!羽天じゃん!久しぶり!」
「お久しぶりです、羽天さん」
「久しぶり、じゃない!なんでそんな夫婦感丸出しで学校に来ているの?!」
「夫婦感があるかはともかく、今日はお仕事ですから」
「仕事⁈」
とある喫茶店の一店長が学校に来て講習会するようなことってあるの⁈
「なんか、経営論について話すんだって。まあ、俺は何もしていないから、おおむね神那ちゃんがやるんだけどね」
「この人は、付き添いですから」
「…この人?」
「ああ、忘れてください」
忘れられねえよ、そんなこと。え、この人?待って、そんな近しい関係だったっけ?
…まあ、1年もあれば、進展もするか。
「…へえ、ふうん」
「じゃあ、俺ら仕事だから」
「失礼しますね」
あ、今舌出したぞあいつ!あんな奴だったっけ?強かな野郎だぜ!
「もしかして、彼女たちも結婚するのかにゃ?11月の22日に」
「22日?」
何かあるのか?宗教的なあれか?
「11月22日って、昔の日本国の人は語呂合わせでいい夫婦の日と言われているにゃ」
「へえ、そうかい」
「だから、よくこの日に結婚しているにゃ」
「でも、その日って」
明日じゃね?
「その辺は、知らないけれど。良いのかにゃ、神は?」
「良いのかって?」
「好きにゃんじゃにゃいのかってことだにゃ」
「…聞き取り辛いけど、よく言われたことだから答えてあげよう」
「うん、うん」
「私はね、足助君、つまりは薮坂足助君のことを良き兄貴としか見ていないんだよ」
「ほう、ほう」
「だから、別に。そんな、嫉妬とかはないんだよ」
「ふうん。まあ、神がそれでいいにゃら、いいんだけど」
「良いんだよ、それで」
だいたい、そんなところだし。
自分の心を押さえつけているとかは、全く思っていない。
「それよりさ」
「うん?」
「なかなかないチャンスだからさ、明日喫茶店に行ってプロポーズシーン見に行かないか?」
「にゃかにゃか、凄いこと言うにゃ」
「いいじゃん、二人だけでさ」
「めちゃめちゃテンション上がっているにゃ。まあでも、気ににゃるから、行くにゃ」
「そうこなくっちゃ!」
授業も淡々とこなし、急いで自宅へと帰ってきた。
「さて、明日はプロポーズ、見に行くぞ!」
予定すらされていないような、知人のプロポーズを見に行くべく、私は早寝をした。
朝になり、急いで喫茶店へ向かった。
最初はやけくそというか、嫉妬心の塊だったけれど、今やもう好奇心の方が上回っている。
「しーつれいしまっす!」
「あ、神」
「え」
「あ」
「ん?」
ひざまずく足助に、涙ぐむ神那ちゃん。ハイタッチしているおじさんとおばさん。
「あ、ごめん。続けて」
「続けられるか!」
「いったん忘れて、テイク2ってことで」
「できるか!」
「いえ、今やらないと!」
「神那ちゃんも?!」
「ぜひぜひ、見せてくださいにゃ」
「君が一番やり辛くさせてるからね?!」
「さあ、結局どれにするんですか?私的には、1番か4番がおすすめなんですけれど」
「本当にやるの、これ?!」
「もうここまで来たら、やっちゃいましょうよ」
「なあ、やろうぜ、足助君」
「ああ、もう分かったよ」
「よっし」
「やったー!」
「お願い致します」
「はぁ」
ふうっと一息ついて。
目が本気になって。
空気をわがものにして。
「あなたが生きる物語を、一番近くで見たいと思う。神那ちゃんがハッピーエンドを迎えられるよう、全力で生きる。神那ちゃんが神那ちゃんである限り、俺は永遠に愛し続ける。だから、結婚しよう」
蝉垳と私と、おじさんとおばさんで狂喜乱舞した。
忘れられない、想い出となった。
少しの嫉妬と寂しさを、私はもう感じなくなった。
それくらいに、清々しい気持ちとなった。
苦手なことがあるだなんて、私らしくもないことを知ってしまった。
「よろしくお願いいたします」
おめでとさん、神那ちゃん。




