すずかぜクラス 運命の10月
宮聖優奈様の登校は、毎朝決まって7時ちょうどである。
学校自体が7時30分に空くのに対し、少しばかり登校が早いのは、宮聖家の優しさなのである。
つまり、普通一般庶民と同じような時間に登校すれば、そこに皆が集って他の生徒や先生方のお邪魔になるということらしい。
なんとも優しい貴族らしい答えに、生き残った宮聖家の処世術が垣間見えた。
かっこいい。
しかしながら、その出迎えは先生の担当で、つまりは私の担当になるため、私もその時間に合わせて早く登校しなければならない。
「まあ、家から近いし」
今日は定期テストの製作も相まって、6時には学校に着くような状態だった。
そんな日のことである。
正確を期するなら、10月16日。
朝掃除をするべく階段を降り、玄関付近の掃き掃除をしていたところ、赤根三咲と、蕪谷野乃葉が登校してきたのだ。
「あれ?早くない?」
彼女らはいつも、遅刻すれすれなのだ。それはもうすれすれで、保護者同伴指導まで、あと1回しか遅刻出来ないという、いわゆるリーチな立場にいるのだ。
そんな彼女らが、珍しく、しかも早すぎるくらいに登校している。
不思議だ、不思議でならない。
もしかすると、この二人にとって大切な話があるのか?
「やっぱり早起きはいいっすね!」
「そうだね、三咲ちゃん」
だめだ、蕪谷はもう、赤根以外の人が視界に入っていない。
「それにしても、用ってなんだったの?」
あれ、蕪谷も知らなかったんだ。むしろ、蕪谷が仕掛けたものと思っていたので、この事に関して意表を突かれたというか、肩透かしにあった気分だった。
「これを君にあげようと思って」
「これって?」
「おふだ」
……え?札?
いつもなにがしたいのかさっぱり分からない言動が、ファイリングすればトゥーレの木ほどにある彼女だが、こればっかりは私の理解を軽々越えてきた。
「あれ、あいつ付き合っていたんじゃねぇの?」
その質問は、蕪谷とシンクロした。
「え、どうしてこんなことするの?」
「だって、君は願いを叶えても成仏しないじゃないっすか」
「え、えっとだってそれは君といたいから」
確かにな、だいたいそうだろ?
「それは、自然の摂理に反するんすよ」
まぁ、それも一理あるけども。
「で、でも、それでも私は」
「でももデモもないんすよ。私だって辛いっすよ」
「じゃあ、どうして?」
泣きじゃくり始めちゃったよ……
気持ち、分からんでもないけどな。
少し厳しくしすぎじゃないですか、赤根さん?
「自然の摂理は絶対なんすよ」
「……ぐす、ぐえ、わ、分かりまし…だ」
「素直でよかった。嬉しいっすよ」
「うえ、うえええええん」
泣きながら彼女は、それでも凛々しく、おふだを食らった。
跡形もなく成仏していった彼女に、少し罪悪感を覚えていたようで、赤根はしばらくそこを動かなかった。
「なぁ、赤根」
「あ、ああ!先生っ!」
「蕪谷に厳しすぎじゃないのか?なんか、あったのか?」
「自然の流れというのは、大切にしなきゃいけないっす。なぜなら、他人を巻き込むから」
「巻き込む?」
「自分が運命を変えたために、他の人が害を被るだなんて、自己中心的で、良くないっすよ」
「他人中心的も、私は嫌いだけどな」
「大天才の、先生らしいっす」
「他人のことを考えるって、ものすごい迷惑をかけていると思っちゃうんだよ。こういうところに、性格が出るよな」
「……」
「だから、気にすることはないんじゃないかな?少なくとも私は、間違っていないと思うよ」
赤根の過去を、私は知らない。なぜなら、聞いたことがないから。
神のみぞ知るということばは、この世にはない。
いつだって、誰かが知っていて、それを伝えないだけなのだ。
自然の摂理はそうやって回っている。
誰もが知っていて、誰もが分からない。
まあでも、神の味噌汁は、有っても良いと思うけどね。
「あ、あの先生。一応登校してきたのですが?」
「あ!宮聖!ごめんごめん、忘れてた!」
「もう、まあ良いですわ」
「ごめんね、そういや今日、朝ごはんなんだった?」
「ご飯と、味噌汁ですけれど」
「もしかして、神の味噌汁?」
「神の味噌汁がどういうものか存じ上げませんが、大変美味でありましたよ」
食べてみたいな、宮聖家の味噌汁。
神の味噌汁より、美味しそうだ。




