早く見つけて
これは、わたしたちの日常にありふれた、ひとつの出来事。
とある道。
その道は、山に面し、脇には川が流れている。民家も道に沿って建っている。極々普通の、田舎道。
車が一台。法定速度を守って走っていた。白い軽自動車だ。
その後ろから、ピンク色の丸みを帯びた軽自動車が、倍の速度で接近してきた。程なくして、ピンクの軽四は白い軽四を追い抜いた。
だがその勢いで車体は吹っ飛び、川へ突っ込んだ。
川はコンクリートで固められている。運転手は無事ではすまないだろう。
そう思っていたが、案外あっさり、運転手の顔を拝むことができた。
ピンクの軽自動車から出てきたのは、若い女の子だ。無傷――とは言えないだろうが、自力で車から脱出するくらいには元気なようだ。
白い軽自動車から出てきたのは、還暦を迎えたくらいの夫婦だった。慌てた様子で、川に落ちた車に走り寄り、少女を引き上げた。
これは、わたしたちの日常にありふれた、ひとつの出来事。
女の子が自動車ごと川に突っ込む、数日前。
同じ道、同じ場所での出来事。
その道を走っていたのは、黒い軽自動車。少しスピードが出ているかもしれない。だが、このくらいのスピードの車は結構いるもので――。
その時も、ごくありふれた風景だった。
だが、車が大きくジャンプした。
ハンドル操作か、居眠りか、野生動物の回避か――理由は定かではないが、自動車が川に飛び込んだのだ。
自動車は確実に廃車であろう有様となっていた。
フロントなど、あったものではない。運転席も、だ。車のフレームは、近代美術のオブジェのようになっていて、赤い絵の具がアクセントとなっていた。
とにかく引き上げなければ。
運転手が動けない以上、車を引き上げなければ、どうすることも出来ない。
車が、ガラスの破片をぱらぱらと落としながら、道へ引き上げられた。運転席に座っている人物はというと、残念だが、救急車が来ても手遅れな状態だ。
野次馬は各々、落胆の息を吐いた。
そんな中で、誰かが言った「下を見て」と。
先程まで車があった場所――ガラス片やライトカバーの破片が散乱している川の中に、それは居た。
もうひとり。
着ているものを見る限り、女性のようだ。
そして更に、こんな情報が舞い込んだ。
地元の女性で、数日前に墓参りへ行ったきり帰って来ていない。その人物らしい。
よほど、見つけて欲しかったんだろな。と、誰かが言った。
これは、わたしたちの日常にありふれた、よくあるはなし。
亡くなった方をネタにするのは、不謹慎かとも思いますが。
地縛霊がイタズラするのとはまた違う事例だったので、書き記させて頂きました。
亡くなられた二名のご冥福をお祈り致します。
感想に頂いたご質問で、答え忘れていた事が……!
これは今年度(2017)~お盆の間に起こった事です。
書いた人はホラーが苦手です。
お化け屋敷に入ると、脅かし役の方に話しかけてしまうくらいには苦手です。
とはいえ、視えない存在はそこらじゅうに在るものです。
今回のような事例は沢山あるので、また追々……書けると良いなと思っております。