第捌話 楽園を追放されし者
「ちょ、ちょっとアンタ! なに、言ったそばから攻撃仕掛けてんのよ! これじゃそのまんま、知的水準の低い侵略生物じゃないのよ!」
「ご、誤解です! 違いますです! これはソニックブームというやつです。我々が降下する際空けた大気の穴に空気が流れ込んだんです! 違う! 私じゃない! いやああああああっ!」
「……アンタ、結構精神的に脆い部分があったのねー。もしかしなくても、ドジで皿を割ったりしたらパニクった挙句、隠避工作図って自滅するタイプでしょ」
「ハァハァ、ごめんなさいごめんなさい。決して悪気があったわけではないんです。これは不幸な偶然が積み重なって起きた事故なんです。私は何もミスはしてないんです。信じてください。だから、どうか私をドジっ子を見るような目で見ないでください」
「フッ。ドジは誰にでもある。それを目ざとく指摘するほど私は狭量ではないよ。だがワットアネント、お前はやはり過ちを犯している。それは私を見くびっているということだ。私がその程度のつまらない主人だと思っていたのかい? いいや、僕は君が思っているよりもずっと、君を大切に思っているのだよ。と、ベリエザスは薔薇を背負い、おもむろにワットアネントの肩を抱き寄せ、顎クイから唇を重ねるものの、重なり合った部分は舞う薔薇の花びらによって絶妙に隠された」
「なにおかしな情景描写してんですか。ベリエザス様は今、私のお腹の中に納まってんですから、顎クイとかできるわけないでしょ。あと、百合っぽい展開はノーサンキューです」
「チッ。ノリの分からない奴め。私だって百合っ気はないよ。つまりなにが言いたいのかと言うと、侍女の間違いは私の間違いだってこと。お前がドジで奇襲をかけたとしても、それは私の落ち度なんだから、気にすんなってこと」
「ううー。だからドジじゃないんですってばあ」
「いいから、いいから。やっちゃったもんは仕方ないでしょ。もうこうなったら有無を言わさず攻撃続行して、下等な侵略生物モードでいくよ」
「もしかして、もう面倒くさくなってません? なんか分別ある主人みたいなこと言って、その実さっさと攻撃したかったんじゃありません?」
「な、なにを、ひひ、人聞きの悪いことを。そんなことは、天地神明に誓って、絶対決してありませんのことよ!」
「いえ、もういいです。全て私のミスです。ベリエザス様に気を遣わせてしまい、申し訳ありません」
「あーっ! なんなのよ、そのスカした態度! 信じてないわね。私はとってもとってもお前の身の上を案じてるんだからね! お前のために私は下等生物のそしりを甘んじて受けるんだからね! だから、ワットアネントは私より先に結婚なんかしちゃ駄目だよ! 私だけがお前の味方なんだから!」
「うわ、ウザッ。絶対職場にいてほしくない先輩の典型的な物言い。大丈夫ですよ。ベリエザス様の侍女になった時点で、結婚はほぼほぼ、諦めてますから。仮にいい人が現れても、意地でもベリエザス様を差し置いて幸せにはなりませんから」
「あら、そう? いいのよ? 私のために自分の人生棒に振らなくっても。なんなら、私がよい殿方を紹介してさしあげてもよろしくってよ」
「なんでいきなりお嬢口調なんですか。もうその時点で激しくアテにできないんですけど。ほら、さっさと攻撃するんでしょ。こんなところで女子トークやってていいんですか」
「ああ、言われてみればそのとおり。んで、さっき吹き飛ばしちゃった連中はどうなってんの?」
「とりあえず死者とかは出てないようですが、結構流血してますね。ただ、なぜかみんな大喜びしてるみたいです。大きく手招きして、カモンカモンとか、もっともっととか言ってるっぽいです」
「不意打ち食らって喜んでんの? この星の連中の頭には虫でもわいてんの? カリスマプロレスラーの前にわざわざ並んでビンタされるのと同じ感覚なのかしら。もしかして、マゾなの?」




