第漆話 その天使の羽がもたらすものは
上空から音もなく急降下し、およそ地上十メートルの高さで静止。両手を広げ、背中から放出されるエネルギーの波動は翼のように見える。その姿は地上に降臨した断罪の天使。会場はしばしの静寂に包まれた。
「我々ハ、ウ、チュー、ジンダ。地、球ノ皆サン、コンニチハ」
ワットアネントがクイーンミダラに搭載された外部スピーカー的な機能を使いコンタクトを試みる。
「……なんでカタコトで喋ってんの? 初対面で緊張してるとか?」
「いえ、この星を侵略しにきた知的生命体は大抵こういった友好的な姿勢を装いつつ、後になって本性を現したり、スッパ抜かれたりしてから、やや強引に侵略路線にシフトするものなのです。あ、ちなみに現実ではなく、地球人の見る映画や小説、アニメといった娯楽作品の話です。彼らとファーストコンタクト、略してファスコンしたのは事実上、我々だけですので」
「随分回りくどい手順を踏むんだねえ。そんなことせずに、有無を言わさずパパっと攻撃した方が早くない? 無駄に尺を取らずにすむし」
「まあ、そういう作品もなくはないですが、その場合、侵略側は大抵昆虫とか軟体動物といった、地球人が一段下に見てる生命体のように描かれてますね。ベリエザス様がそれでいいと仰るなら、従いますが」
「ストーップ! それはナシ。駄目。無理。絶対NG。なんかお見合いイベントで年収二百万の男に僕がお嫁さんに貰ってあげるとか言われてるいき遅れっぽくて、まずありえない。ここは面倒でも、とりあえず友好関係からの侵略シフト路線を採用するよ。あと、ファスコンって略は新手の婚活事情っぽく聞こえるから、こっちもナシの方向で。手始めに友好関係を結ぶために、金の雨でも降らせとく?」
「いきなり金ですか。でもちょっと待ってください。どうもこの星の連中は我々を見て友好的な態度を示しているようですね。しきりに動画を撮ったり、口笛吹いたりしています」
「なんだろ? もしかして、ワットアネントのカタコトがこいつらのハートをいきなり鷲掴みにしたの?」
「いえ、どうもそうではなく、詳しい説明は省きますが、我々を主催者が仕込んだサプライズかなにかと思い込んでいるようです。よかったですね。手間も省けて尺も取らなくって、願ったりじゃないですか」
「それはそれでなんか腹立たしいんだけど、まあいいわ。とりあえずツカミはOKなんだから、後はワットアネントがセクシーポーズとかとって、せいぜい媚びときなさい」
が、次の瞬間、突如強烈なダウンバーストが発生し、設営されたステージもろとも観客たちが数メートル、放射状に吹っ飛ばされた。