最終話 ほんの少しだけ、違う日常
「アンタがあの赤い機体のパイロット、破天荒死郎ね。改めて自己紹介するわ。私はエリザベス。アンタと同じ、スーパー天才エリートパイロットよ。よろしくね」
胸に手を当てて見下ろすエリザベスを、ヤスオはただ唖然と見上げる。
「はあ? いきなりなに言ってんのお前。頭おかしいのか? ってゆうか、なんで俺の正体知ってんの? まあ、俺のあずかり知らないところでタイム誌の表紙を飾るほどの有名人になってても無理ないけど。あっ。このパターン、さてはお前もあのオッサンの息がかかってるんだな? さしずめ諜報部の女エージェントってとこか?」
だがエリザベスはヤスオの言い分に小首を傾げる。
「アンタの方こそ、なにわけ分かんないこと言ってんのよ。まあいいわ。こうしてクラスメイトになったんだし、アンタは今日から私のカレシにおなりなさい! これは命令よ」
突然の告白に教室がどよめく。隣の甘野もにこやかにその様子を眺めている。
「畜生! なんでよりにもよってあのハゲなんだ。甘野ならまだ諦めつくけど」
「きっと彼女の国の美的感覚では、今北みたいなサル顔がイケメンなんだ。そうでなければ、こんな事象は説明できない!」
男子生徒の嫉妬と憎悪が渦巻く中、アントワネットが背後から近付いてヤスオに耳打ちした。
「あまり深く考えないでください。この方にとってカレシというのは召使いやペットといった程度の意味合いですから。まあ、それでもアナタのような凡人がご主人様にお近づきになれるだけで、この上ない名誉なんですけどね。感謝して下さい」
「ああっ! ゴスロリちゃんまで今北になにか囁いてる! 羨ましい!」
「なんで帰宅部で中二病で頭もめちゃくちゃ悪いあのサルがこんなにモテるんだ! これはなにかの陰謀だ! ハニートラップゲートだ!」
怒れる男子生徒とは対照的に、女生徒たちは歓喜の声を上げる。
「やったわ! 彼女が現れたときは正直、甘野君は諦めかけたけど、今北のサルを彼女が引き受けてくれるなんて。これで私にも、まだまだ可能性が出てきたわ!」
「エリザベスさん! 私達、あなたの応援をするわ! 仲良くしましょうね」
教室内は再び混沌としてきた。担任代理の早乙女は腹筋などをしている。ヤスオは男子生徒の負の感情を一身に浴びせられ、エリザベスは腕を組んでふんぞり返っている。アントワネットは覚めた表情で着席し、甘野は笑みを浮かべていた。
ヤスオはただ一人、これからの学生生活が決して平坦ではないことを、ひしひしと感じていた。
~続……く?~




