第伍拾弐話 取り戻したのは取り戻したくもなかったものばかり
謎の巨大ロボットの侵攻。市街地ならびに公安や海上防衛隊が受けた深刻な被害。謎の大爆発。これら一連の事件がマスメディアに消費され、飽きられるまでさほど時間はかからなかった。損害の割に死者は奇跡的に一人もおらず、直後にこの騒ぎの渦中、時の国防大臣がなぜか女装してサバゲーに興じていたという謎過ぎる行動が発覚したのも一因であろう。ヤスオたちの乗るスーパーロボ、タイヘーンスリーの存在は口の端にものぼらず、ショックでハカセは数日寝込むほどの影の薄さを発揮した。
謎の巨大ロボットの存在など人々の記憶から薄れ、復興も著しい通学路をヤスオは両手をポケットに突っ込み、ミナミの闇金ばりに闊歩していた。
「おらおらあ! お前らを極悪な宇宙人から守って差し上げた、スーパーロボットのエースパイロット、破天荒死郎様のお通りやでえ。道を空けんかーい!」
ヤスオが一喝すると朝の幸せそうな光景は一変し、周囲の学生、会社員、子供連れの母親らは潮を引くようにその場からそそくさと姿を消した。
「すごいや。やっぱりタイヘーンスリーのパイロットになると、もう世間の尊敬を集めまくってるね。アニキ!」
なぜかヤスオの舎弟となったありすが傍らでヤスオのご機嫌をとる。もちろん、男の娘なので着衣はヤスオと同じ学ランである。
「そうか? なんか尊敬されてるというより、不審人物でも見るような目で距離をおかれたようにしか思えないのは俺の被害妄想であろうか?」
「考えすぎだよ。天才エースパイロットなんて見たことないから、みんなどう接していいのか分かんないんだよ。きっと」
「たとえそうだとしてもよ、あれだけの活躍をした俺様に対して、誰もサインや写メを求めたり、どこぞの週刊誌がフライデーしようとしないのはどういうわけだ?」
「うーん。それはさすがにボクに聞かれても困るけど、ボクとしてはよかったかな。だってアニキがみんなの人気者になっちゃったら、ボクだけのアニキじゃなくなっちゃうもん。きゃっ。ボク、すっごく恥ずかしいこと言っちゃった」
ありすが両手を頬に当てて恥らう。
「冗談じゃねえぞ。暴走族を傘下に収めたり、バラエティ番組に出演したり、女の子をとっかえひっかえ遊びまくったりできないんじゃ、スーパーロボットのパイロットなんて、危ないばかりでなんのメリットもねえじゃねえかよ」
「でもロボットアニメの主人公はほぼ例外なくブラックな待遇でがんばってるわけだから、アニキだけそんなおいしい思いはできないよ。現実なんてそんなもんだよ」
そんなことを言い合っているうち、二人は校門に到着。
「じゃあ、ボクは中等部だから、ここでお別れだね。アニキ、浮気しちゃ駄目だよ」
「おう。帰りにマッタリーズコーヒーに寄るから、放課後に集合な。俺がおごってやるよ」
無論、ヤスオのおごりとは、ハカセからせしめたクーポンである。何度も手を振るありすを見送り、ヤスオも玄関に入った。




