第肆拾漆話 出来損ないの希望を掻き集めて
「もういい! 荒死郎。機体を捨てて脱出するんだ。このままでは本当に殺されるぞ。どうせ死ぬならハカセの人体実験の後にしてくれ!」
ハカセが本気とも冗談ともつかない通信を入れる。だが、打つ手なしとなった状況下で、まだヤスオは逆転の糸口を模索していた。
「まだだ。まだなにか方法があるはずだ。考えろ! 考えろ! 奴の弱点を。思い出せ。奴の思考を。習性を。行動原理を」
「さっきからなにをブツクサ言ってるのかしらあ? それとも観念したの? 無様に命乞いでもすればもしかすると見逃してあげなくもないかもしれなくってよ? どうする?」
クイーンミダラが一号機を踏みつけたまま覗き込む。と、突如ヤスオが叫んだ。
「お前が、好きだーあっ!」
「え、な、なに? なにいきなり血迷ってんの? 頭でも打ったの? 大丈夫?」
努めて冷静を装うベリエザスだったが、明らかに動揺していた。
「血迷ってなんかねえ! 俺は、ひと目会ったその日から、お前の虜になったんだ! 決して報われることのない恋に身もだえする、愛の奴隷なんだよ! だから、お前に殺されたって一向に構わない。それでお前が満足するのなら、何度だって殺されてやる! でも死ぬ前に、俺の気持ちだけは伝えておきたかったんだ」
「ははあ。さてはこのパイロット、自分が生き延びるためならなんでもかんでも利用する最低なクズ野郎ですね。ベリエザス様、さっさと踏み潰しちゃいましょう」
そんなワットアネントの的確な分析も今のベリエザスには届かない。
「ちょっと、やめてよ。そんなこと言われても、どうにもなんないのよ。アンタと私じゃ身分が全然違いすぎるし、今日会ったばっかりだし。まあ、私の魅力にかかれば会って三秒で告白っていう、成年コミックでしかありえないような奇跡が起こっても無理ないけど」
ベリエザスの心情に合わせるようにクイーンミダラが両手を頬に当て、恥らう乙女のような仕草を見せ始めた。
「やめてください! ベリエザス様がラブコメするのは勝手ですが、このロボット、私なんですよ。妙な動きしないでください。ものすごい馬鹿みたいじゃないですか」
ワットアネントの制止を遮るようにヤスオが畳み掛ける。
「身分の違いなんか関係ねえ! 会って三秒なんか、もっと関係ねえ! 好きになるのなんて一瞬だ! 俺は今日、お前と会って、初めてそれを知ったんだ。お前が教えてくれたんだよ!」
たちまちクイーンミダラの頭部が赤く発光し始め、両手でパタパタと顔を仰ぐ。
「ちょっと! 大人をからかわないの! 私はアンタが思ってるような、ウヴな女の子なんかじゃないのよ! 世間ズレしてるし、我が儘だし、晩酌しがらナイター見てるし、家ではあぐらかいてるし、胸は洗濯板だし、それになにより、もういい歳したオバさんだし」
「お前がオバさんでも、好きなんだからしょうがないだろ! いや、お前がこの先、足腰立たない、介護が必要なばあさんになったとしても、俺の気持ちはずっと変わらない!」
「ズッキュウウウウン!」
ベリエザスが突如謎の奇声を発した。
「な、なんなんです? そのハートを射抜かれたような擬音は! いや、口に出してるから正確には擬音ではないんですが。まさかとは思いますが、告られたの、初めて? それでハマッちゃったんですか? こんな見え透いた手口に? どんだけハードル低いんですか! アナタ、結構昔にホワイトカラーと結婚できないなら医者とすればいいのよなんて暴言吐いたの覚えてます?」




