第肆拾肆話 早乙女、ありす、そして荒死郎
丸腰となり、逃げ回るしかできなくなった一号機と二号機だったが、ここで早乙女の三号機、グランドカイザーが到着した。
「はーい、お待たせえ。真のヒーローは遅れて到着。早乙女早苗、ただ今参上。フヌッ」
「おおっ。思ってたよりずっと早かったな。信じられねえ。多分コイツの方向音痴とおばさんの聞き取り不能なナビが奇跡の融合を果たしたんだろうな。マイナスとマイナスをかけてプラスになったみたいな」
「さあ、ここからみんなのお待ちかね、早乙女ターイムの始まりだよ。マッスルミサイル、発射!」
が、早乙女がボタンを押すと三号機から黒煙が立ち上り、たちまち周囲を覆った。
「やっぱりな。俺と同じ失敗してやがる。大方あれも敵に被弾したと思わせるカモフラージュなんだろ」
「そのとおり。動力系に重大なダメージを受けたと相手に思わせつつ、煙幕にもなるスグレモノだ。ただ、自分の視界が一番に遮られるのが難点だな」
「どうして後先考えずにわけ分からん機能ばっかり付けるんだ。これじゃ三号機の武装も使えねえぞ。まあどうせあのバリアには通じないんだからやるだけ無駄なんだがな」
「でも荒死郎、これはチャンスだよ。煙幕に紛れて合体すれば、多分あのバリアも突破できるよ」
「そうなのか? 合体しただけでマジでそんなすごいことになるのか?」
「うーん、いや、まあ、根拠はないんだけどね。ただなんとなく」
「おいオッサン、ありすはこう言ってるが、そこんところはどうなんだ?」
「うむ。実はな、君達に言っておかねばならないことがある」
「今更なんだよ? 激しく嫌な予感しかしないんだが、手短に頼むぜ」
「君たちの搭乗する一号機、二号機、三号機はトライアングル合体を敢行することにより、未知のパワーを秘めた人類最終絶対防衛兵器、人型ロボット、スーパータイヘーンスリーに変形できるのだ!」
「……それで? そんなの最初からくどいほど言ってたじゃねえか」
「荒死郎。お前もオトナなら空気を読め。合体変形ロボの主人公はその機能を知らないまま出撃し、にっちもさっちもいかなくなってから合体機能の存在を教えられ、驚きのリアクションをとるパターンが半々存在する」
「じゃあ俺たちは知ってから出撃するパターンの方だな。オッサンもありすも最初から言ってたし」
「だが、そのパターンは明らかに後半の盛り上がりを欠く。お前も幼少の頃からロボットアニメを見て育ったから分かるだろう」
「いや、俺はガキの頃は野球協約の唄とか、トンパチ相撲軍みたいな王道スポ根アニメが専らだったから、ロボットアニメの嗜み方は知らないんだわ」
「……実はね、君たちの乗る機体は、合体して巨大ロボになれるんだよ?」
「お前いま編集ポイント作っただろ! あわよくば俺らが乗っかって驚くリアクションすればなんとか繋がるとか思ってんだろ!」
「うわあー、そ、そうなのー。ボクたち合体できるの? 全然知らなかったよー。もうクリビツテンギョーだよう」
「おいありす! おまえも無理くり乗っかるんじゃねえ。棒読みで明らかに不自然だろ」
「えー。じんじらんなーい。おでいさん、ごうじろうどがっだいでぎるなんで、ぜっだいありえないどおもっでだわー」
「いきなり思い出したようにおばさんまで乗っかってこなくていいから! あんたパイロットじゃねえし。おまけになに言ってんのか分かんねえし」
「合体するにはまず筋肉を付けないとね。それじゃあ、今からみんなで筋トレをしようか」
「意味分かんねえよ。もう合体関係なくなってない? 驚きのリアクションとか別撮りでいいから、さっさと合体しようぜ。いますぐ合体させろ。頼むから合体だけさせてくれ!」
「そんなに合体合体と連呼するんじゃない。仕方ない、ヤツコさんも頬を染めてるし、特別に合体させてあげよう。べ、別に荒死郎だから合体させてあげるわけじゃないんだからね!」
「なんでいきなりツンデレなんだ。嬉しくない上に、オッサンのツンデレなんかキモいだけだから」
「そう照れるな。合体コマンドは三人が呼吸とタイミングを合わせて上上下下左右BAだ。だがそれだけでは真の合体とは言えない。お互いを思いやる気持ちが重要なのだ」
「そんな面倒くさい手続きが必要なのか。もったいぶらずに合体くらいすんなりさせろってんだ」
「それじゃあみんな、いくよ。ゴー! トライアングル合体!」
ありすの掛け声と同時に三人がコマンド入力。すると三機は煙幕の中、オートで合体フォーメーションに入る。名前に反して三機は縦一列となり、レーダーサイトで繋がりながら、それぞれが分離、変形を開始。そして三機の間隔が狭まり、巨大な人型を形成しようとしたまさにその瞬間、煙幕を裂いてクイーンミダラがその姿を現した。




