第肆拾弐話 儚き眼差し。二人だけの約束
一方、ヤスオとハカセはここぞとばかりにほぼすべての火力を投入し、抵抗の気配を見せないクイーンミダラに容赦ない攻撃を加える。地面に這いつくばるクイーンミダラに上空から攻撃を仕掛けるその姿はさながら死者に鞭打つ伍子胥のようであった。
「信じられん。まさか初陣でここまでの戦果を上げるとは。やはり荒死郎こそ真のスーパー主人公。エースパイロットとなるべき男。ハカセの目に狂いはなかった。くうっ」
てなこと言いながら目頭を押さえるハカセ。そこへありすが水を差す。
「でもボクさっきから夕方のニュース特番チェックしてるんだけど、なんかボクたち悪者みたいに言われてるよ? 無抵抗の敵を一方的にボコってるから感じ悪いんじゃないかなあ」
「なんだと? こっちはあの筋肉バカが到着するまでに勝負を決めようと必死なのに、世間は勝ち方にまで注文つけるのかよ。プロ野球や大相撲やってるんじゃないんだぞ」
「まあ、気にするな。世間なんてそんなもんだ。連中は現場の過酷さなど見向きもせず、勝ったら勝ったで文句を言い、負ければ責任を追及したがる。気にしていたらキリがない。いまの我々に重要なのは勝ちきることだ。極楽楽座も壊滅状態になったし、当初の目的も概ね果たせた。あとは油断せず、確実に勝利という結果をもぎ取るのみだ」
「でもさあ、さっきから荒死郎、武器を撃つたびにヤスオなんとかって叫んでるけど、あれってなんなの?」
「はっはっは。ありす君、それは言わない約束だ。ハカセと荒死郎だけの、男同士の秘密ってやつだから。なっ、荒死郎」
「なにが、なっ、だ。まるで弱みでも握ってるみたいな言い方すんじゃねえ。俺の本名が今北ヤスオってのは別に秘密でもなんでもねえから。そんな言い方したらホントに内緒にしてるみたいだろ」
「ひどい! 破天荒死郎なんてイケてる名前でボクの心を鷲掴みにしておいて、二人して騙してたんだね! でもでも、荒死郎がそんな平凡極まりない本名だからって、ボクの荒死郎に対する想いは変わんないんだからね」
「この名前ってイケてるのか? 俺にはイタい偽名としか思えないんだが。自分で付けといてなんだが。てゆうか、名前で相手に惚れるってどうなのよ。一体どんな性癖なんだ」
「こらこら、二人とも、兵器の管制でイチャつくんじゃない。勝利は目前だ。最後まで気を緩めるなよ。今夜は牛男爵で祝勝会だ。もちろん、ハカセのおごりだからな!」
「やったあ。久しぶりの焼肉だー。ボク、ホルモン食べようっと」
「一番気が緩んで周囲まで弛緩させてんのはオッサンその人としか思えないんだが。でもまあ、もうひと押しすりゃノックアウトは疑いようがねえな。さっさと次のコマンドを教えろ。学校サボって栄養失調になるほど格ゲーやり込んだ佐藤 鷲もまっ青のゴールデンフィンガーで、どんなコマンドでも入力してやるぜ」
「うむ。次でこちらの武装もいよいよラストだ。こいつは結構ハードだぞ。下、左、下、右、右上にAC同時押しで最強装備、センチュリースプラッシュキャノンだ」
「任せろ! 下、左、下……くらえ! ヤスオプラトニックキャノン!」
最後の兵器が発射されるのとほぼ同時、クイーンミダラに異変。ありすが即座に反応した。




