第肆拾壱話 ただ、そこにいるだけで
「おおっ。地味に効いてるじゃねえか。もしかして、あのオッサンの言うとおり、本当にチャンスなのか?」
「いいぞー、荒死郎。その調子でがんがんやっちゃえー」
「ありす君の言うとおりだ! 敵は弱っている。一気に畳み掛けるんだ。次はビーム砲をお見舞いしてやれ。コマンドは左タメ、右同時にB! カッコ右向き時だ」
「そのカッコ右向き時っての、もういらないから。あと、コマンド入力の度に機体がブレてめっちゃ狙いにくいのは今後の課題な。くらえ。ヤスオセレブリティビーム!」
コマンド入力と同時にフレイムライダーの下部から光線が放たれクイーンミダラに命中。またも大きな爆発が起き、コクピット内に衝撃。ベリエザスが悲鳴をあげる。
「そ、そんな馬鹿な! この私が負ける? こんなショボイ連中に? そんな逆ジャイアントキリング、絶対認めないわ。ちょっとー、スタッフー、スタッフー。なにやってんのよう。みんなのスーパーアイドル、ベリエザスさんが絶体絶命よー。ねえワットアネントさーん。さっきからシカトぶっこいてないで、なんとかしてよー」
見苦しく取り乱すベリエザスの醜態にワットアネントが溜息混じりに応答。
「誰がスタッフですか。カリスマホストですか。アナタさっき腕をもがれても頭潰されてもとか啖呵きっといて、その舌の根も乾かぬうちにそれですか。逆境を乗り越えるんじゃなかったんですか? あの最後に信頼していた侍女も去ったとかいうモノローグは一体なんだったんです?」
「あんなの場を盛り上げるための一人語りに決まってるじゃない。あ、もしかして気にしてた? それでおへそ曲げちゃった? んもう、ワットアネントさんったら、そんな細かいこと気にしてたらオトコとなんか付き合えないわよ。もっと鷹揚に、どっしり構えてないと長続きしないんだからね」
「ベリエザス様にだけは言われたくないですね。で? なんなんです? もしかして私のやり方に戻すとか仰りたいわけですか? 私はやぶさかではありませんが」
「いや別にそこまでは言ってないわよ。ただあまりにも楽勝だと作業してる感しかしないから、ちょっとピンチになって、表向き逆転不可能な雰囲気を醸しつつ伏線を張りながら最後の最後で必殺の逆転技で勝利を収める形に落とした方がいいと思うわけよ、わたし的に。だから、そんな芸当できそうなのはやっぱりスーパーエリート侍女のワットアネントさんくらいしかいないから、こうして頼んでんじゃないのよ」
「ものすごく我が儘な注文ですね。いまに始まったことじゃございませんけど。じゃあこちらもそこそこダメージを受けて、相手に辛うじて勝てた感じで勝ちたいと。そういうプランで行くんですね? なるべく善処しますが、もうやり直しはごめんですよ。大体このロボット、私なんですけどね」
ワットアネントが些かキレ気味な空気を察してベリエザスが下からOKを出した。




