第参拾玖話 孤独な女王
「えーん。このままじゃ落とされちゃうのは時間の問題だよー」
クイーンミダラの猛攻をしのぎながらも、武装の尽きたありすは悲鳴交じりの弱音を吐く。敵の注意を引き付けつつ、ヤスオと早乙女の到着をひたすら待っていた。
「イラつくわー。なんで当たんないのよ。一発当たりゃ即クリアなのに、こっちの攻撃は絶対当たんない仕様のクソゲーやらされてる気分だわー。もしかして私の操縦ってそんなに駄目なの?」
ベリエザスもまた、ありすの天才的な回避能力にプライドを打ち砕かれていた。
「ああ、若干、自覚はあったんですね。実はそうなんですよ。さっきからベリエザス様の攻撃パターンをアルゴリズム化して、いくつかシューティングゲームをプレイさせてみたところ、すべて最初のステージ序盤で全滅しました。そりゃあもう、ゲームなんかしたことないのに超弾幕系の激ムズシューティングに手を出してコントローラー叩きつける素人ゲーマーレベルのヘタさで。ここまでセンスがないのは逆に感心です」
「なに勝手なことやってる上に、性格分析までしてくれてんのよ! 私はコントローラー叩きつけなんて子供じみた真似なんかしないんだから! モニタをチョップで真っ二つにはするかもしれないけど」
「いや、どう考えてもそっちの方が子供っぽいでしょ」
「ふーんだ。子供にモニターは真っ二つにできないもーん。だからモニターを真っ二つにするのは子供じみてないもーん。だから私は子供じみてないんだもーん」
「なんなんですか。その意味不明な三段論法。どうでもいいですけどコクピット内で八ツ当たりはやめてくださいね。一応このロボットは私なんですから!」
「はいはい。そんなことよりレーダーに感。高速で熱源体一基接近。またミサイル?」
「映像出します。ミサイルではなく戦闘機です。性懲りもなくまだ攻撃が通じると思ってるお馬鹿さんがいるようですね。いえ、前言撤回。この機体もあの白い機体と同様、解析不可能な部分が存在します。先ほど撤退した防衛隊とやらとは明らかに命令系統を異にしています」
ワットアネントが解析した映像をモニターに送る。そこにはヤスオの乗る真紅の機体、フレイムライダーの姿が映し出された。これを認めたベリエザスのテンションが一気に上がる。
「白いやつのお次は赤い機体ってわけね! まさに燃えるシチュエーションだわ! 認めたくないものよねえ。自分自身の……」
「攻撃きます。バリア展開」
「なによ。人が歴史に残る名言吐こうとしてたのに。大体バリアってなに?」
「さっきから使ってるんですよ。バリアってのは、この星で言うところの干渉遮断壁のようなものです。これのおかげで敵の攻撃は一切通用せず、ベリエザス様の腕前でも一方的に相手をボコれてるんです」
「はーい。りょうかーい。それ、今からキャンセルねー」
「はあ? なに言っちゃってるんです? 私の話、聞いてます?」
「聞いているからこその判断なのである。常に優位に立ち、百パー安全では盛り上がりに欠けるのである。腕をもがれ頭を潰され、敵に恐怖し挫折も味わい、時にカメラの前でゲロを吐いたり失禁しながらも、不屈の闘志で立ち上がり、勝利を掴むのが真のヒロインたる者。逆境から這い上がる、永久不変の美少女像がそこにはあるのである。辛いけどな」
「もうなにを言ってるのかさっぱり分かんないんですけど、本当にいいんですね? 後で泣きを見ても知りませんよ」
「大丈夫よ。私を信用しなっさーい。美少女ヒロインはどんなピンチに陥っても助かるんだから。最悪死んでも生き返るんだから」
「まあ、それは否定はしませんけど。巨大ロボで戦闘機を相手にしてる時点で美少女ヒロインのやることではないんですけどね。そんなにピンチに陥りたいんならもう私はサボタージュさせていただきます。好きにやってください」
ワットアネントがその通信を最後に沈黙すると、クイーンミダラの周囲に展開されていたバリアも消滅。ベリエザスが舌なめずりして操縦桿を握りなおす。
「もう、私にはなにもない。親友も、カレシも、最後に信じていた侍女さえも私の元を去った。でも、私は負けない。私の首を狙うあいつらを倒し、この宇宙に真の平和と自由を取り戻すその日まで。さあ、かかってらっしゃい。勝負はこれからよ!」
クイーンミダラが接近する一号機の方角に向かってファイティングポーズをとった。




