第参拾参話 君を呼ぶ声があるから
「ハカセー、荒死郎ー。なにやってんだよー。さっきから待ってんのに全然出てこないじゃん。ボクだけじゃ歯が立たないよー。早く出撃してよー」
ありすが悲鳴混じりで一号機の出撃を促す。カメラが捕えたクイーンミダラは腕組をし、空中に静止したままだったが、弾幕系シューティングを思わせる光線を体中から放ち、二号機は躱すのに精一杯という状態だった。
「うわ。なんか反則的な火力だな。これを寸前で躱すありすも地味に凄えな。あいつ、天才ゲーマーか」
「そのとおり。ありす君はああ見えて子供の頃から天才の誉れ高いゲーマーでな。クレーンゲームでは店員を誘惑して景品を獲得し、麻雀ファイト倶楽部では今ドサ健と恐れられ、アングラ系ゲーム誌にクソゲーのレビューを投稿しては世に埋もれたクソゲーを何本もディスカバリーした実績を持つ、筋金入りのゲーム廃人なのだ。あの程度の弾幕など、ありす君にはどうということはない」
「かなり方向性を間違ったゲーマーだけどな。見た感じ結構一杯一杯っぽいけど。そういや三号機はどうしたんだ? もう撃墜されたのか?」
続いて早乙女のサブ画面が開かれた。相も変わらず暑苦しいまでのマッスルスマイルにヤスオは落胆する。
「おーい。ここは一体どこなんだい、イヨッ。さっきからあのロボットを目指して走ってるんだけど、セイッ、全然違う方向に出ちゃったよ、トオリャッ。誰かナビしてよー、フムッ」
「どんだけ方向音痴なんだよ。やっぱ筋肉バカは使えねえ。あと、通信しながらなんかポーズとってるっぽいけど顔しか映ってねえから、さっぱり分かんねえのは不幸中の幸いだな」
「そう言うな。早乙女君も来日したばかりで土地勘がないのだから仕方ない。予算を使い込んでカーナビを搭載できなかったハカセのミスだ」
「それミスとか言う以前に犯罪じゃね? いやもう、そんな着服みたいな話聞かされても大して驚かない自分にいま一番驚いてるけど」
「なら、荒死郎の任務は決まりだ。フレイムライダー出撃と同時に三号機のナビ。そのまま二号機と合流し敵を三機でいい感じに牽制しつつ隙を見てスーパートライアングル合体を敢行し、タイヘーンスリーに変形。面食らった敵を飛び道具で不意打ちし、怯んだところに必殺技、スーパーカタルティシズムパンチを叩き込んでトドメ。うむ、これぞヒーローロボの王道。王者の戦い方というものだ」
「随分ざっくりしたプランだな。どっかのヤンキーの将来設計みたく、そう上手くいくもんなのか? 大体敵の能力も未知数なのに、そんなに簡単に攻撃方針決めて大丈夫なんだろうな」
「問題ない。敵は未知数だが、それは向こうも同じはず。自分が苦しいときは相手も苦しい。気合と根性のあるほうが勝つ。これ、戦いの常の常なり」
「最後は精神論かよ。孫子の兵法って知ってるか?」
「ほらほら。早く出撃せんと、ありす君ももたないぞ。合体変形機構は一機でも落とされたら途端に使えなくなる、結構不便なシステムなんだ」
ハカセがヤスオの尻を押してコクピットに押し上げる。ヘルメットを回収しつつシートに座ったヤスオは違和感を覚えた。




