第弐話 高次元意識思念体の誘惑
その頃、月軌道上。
「プピーン。べリエザス女王陛下におかれましては大変ご機嫌麗しく……」
「堅苦しい挨拶はよい、ワットアネント。それよりも、あの青く美しい星が地球かい?」
「はい。この恒星系で、唯一、知的生命体が存在する星でございます。プピーン」
「まるでニビルヒョウモンダコを思わせる可憐な姿じゃないか。あんな虚弱体質っぽい星の生物を全滅させたら、さぞかし気分がスカッとするだろうねえ」
「その意見には色々問題がありそうなので、あえてコメントは差し控えさせていただきます。ちなみに地球というのはあくまで固有名詞であって、宇宙基準ではないことを付け加えておきますプピーン」
「……さっきから気になってんだけど、そのプピーンってのは地球のJKの間ででも流行ってんのかい? マジカルバナナ的な」
「いえ、ただちょっと宇宙感を出しておこうかと思いまして。なにしろ活字では情景描写が面倒なのでプピーン。それと、余計なこととは思いますが、マジカルバナナJK世代は現在さすがにアラフォーではないかと思われますプピーン」
「もうプピーンが気になってなに言ってんのか分かんねえよ! コホン。とにかく、そんなに無理して宇宙感なんか出す必要もないだろう? 私達は三次元下等生命体にとっては神にも等しい高次元宇宙意識思念体なのだから。実体を持たなくて、辺り一面宇宙しか見えないから絵的にかなり地味だとか、どこにいるのか分かんねえよオラとか、作画が手抜きとか、そんなことを気にするのは肉体の檻に囚われた憐れな三次元生命体の思い上がりってもんよ。オーホホホ。と、口元に手を添えて笑う」
「めっちゃ気にしてるじゃないですか。さりげなく自分の動作をイメージ化してるじゃないですか。高次元宇宙意識思念体としてのプライドは犬にでも食わせたんですか」
「おだまり! それも時と場合によりけりなのよ。大体、私のような全方位系美少女ヒロインが女王様キャラやってるだけでも伝わり辛いんだから、ある程度のイメージ化は最低限必要なのよ」
「あ、この人、実体ないのをいいことに、自分のビジュアル設定勝手にしちゃったよ」
「さて、わたくしの容姿も固まったことだし、あの星の生物を直接ボコって滅ぼすには三次元世界に実体化する必要があるねえ。その知的生命体とやらが神とか悪魔とか、恐れ崇め奉ってるカッチョイイ偶像とかはあるのかい?」
「はい、その点は抜かりなく。最近はアマゾネスとかいって、宇宙にまでいろいろな物を送り届けてくれるサービスが充実してますから。いい時代になったものです。いま、私の記憶の一部をべリエザス様に送りますね。ミュインミュインミュイン」
「いや、そういうのいいから。無理に記憶の転送してる感出さなくていいから。おお、きたきたきたあ。私の思念にお前の記憶が流れ込んできたぞ。私の可愛いワットアネント」
「ベリエザス様こそ女王様とその侍女感を今更出しにいってるじゃないですか。もう届きましたね? それが地球の知的生命体、人類、もしくは地球人と名乗る連中が神と崇拝している、スーパーロボットというものです」
「おお。なかなかイイじゃないか。白を基調としたカラーリングに紫のワンポイントが小憎らしい。石垣カラー入ってるリアル系メカデザもイケてるっぽいぞ。ただ、胸部が妙に盛り上がってるけど、ミサイルの発射口でもあんの?」
「いえ、これは女性型というらしいです。なんでもスーパーロボットの信者は女性キャラのユッサユッサというものに対して異常なほどの性的興奮を覚えるらしいのです。そりゃあもう、現実女性がないがしろにされるくらいに」
「……よく分かんないけど、この女性型の方が人類に対して効果的なんだね? よし。では早速、お前がこのスーパーロボットにおなり! 名付けてクイーンミダラ! 腹部のコックピットという部分には私が乗り込むから」
「え? 私? ヤですよ。大体、我々はどんな姿にでもなれるんですから、なにもコクピットまで再現してわざわざパイロットが乗り込んで操縦までする必要ないでしょ。ベリエザス様がなれば済む話じゃないですか」
「分かってないねえ、ワットアネント。人類と同等のレベルにまで降りてやんないとフェアじゃないというか、気晴らしになんないじゃない。いいから、今からお前をスーパーロボットにするよ。宇宙空間の物質使って構成するからね。むううーん」
「ちょ、ちょっと。やめてくださいってば。いや、マジで。今日私はひと月に一度のイベントの日なんです。もう早退させていただきます。ああああ」
女王ベリエザスが気合を発して念じると、宇宙空間に漂うデブリが渦巻状に集まり、ワットアネントの肉体が無理矢理造られていった。




