第弐拾捌話 出撃の時、早乙女の目覚め
「では、パイロットも揃った。タイヘーンスリー、ちゅつげき!」
馴れない命令で噛んだものの、そこは全員がスルーしめいめいのロッカーに向かう。パイロットスーツがあると聞かされていたが、中に入っていた物体にヤスオはしばし茫然自失する。
「なあ、これってパイロットスーツなのか? 俺の目にはスクーターに乗ってるおばさんがよくかぶってる野球帽ヘルメットがひとつあるだけにしか見えないんだが」
「すまん。予算の関係でな。スーツが間に合わなかったのだ。だが、それこそエデン謹製、特G耐硬化マキシマムヘッドガード。ただの野球帽ヘルメットと侮るなかれ。耳あて部分に内蔵されたスピーカーが司令部からの指示を伝え、AM限定ながらラジオも聞けちゃうスグレモノだ。ただし、衝撃には弱いので扱いはくれぐれも慎重にな」
「頭部を守る防具の説明じゃねえな。余計な機能を無理して付けるからそうなるんだろ。純粋に耐久性を求めようという姿勢すらねえのか」
ヤスオがハカセに噛み付いている間に、ありすと早乙女がメットを装着してそれぞれ感想を述べる。
「あーあ。こんなのかぶったら、また髪の毛のお手入れしなくちゃ。これだからパイロットはヤなんだよなあ」
「僕はありがたいけどね。体は筋肉で守れるけど、頭皮に筋肉はつけられないから」
そんなことを言い合っている二人を見て、ヤスオがますますハカセに噛み付く。
「見ろ。俺とありすはまあいいとして、あの筋肉バカがパンいちにメットかぶってる姿は誰がどう見ても犯罪者じゃねえか。全部手前のせいだ。きちんとスーツまで用意してないからこんな悲劇が起きちまうんだ」
ヤスオに襟首を掴まれたハカセが呼吸困難に陥っているのにも構わず早乙女が宥める。
「そんなに心配しなくてもいいよ、フンッ。僕は体を締め付けられるのが嫌いだから、ウムッ。スーツなんかあっても着ないし、エイヤッ。そもそも筋肉というスーツに守られてるから必要ないし、ソイッ」
例によってマッスルポーズを決めつつ言葉を接ぐ早乙女だった。
「手前の体の心配なんかしてねえ。俺の心配は世界平和に関わることだ」
するとまたも地響きが起き、ありすが二人を促す。
「もう! 今更そんな言い合いしてないで、早く出撃しようよ! そろそろ読者もああ、これはそもそもロボット自体が出撃しないままオチに持っていくメタなんだ、って気付き始める頃だよ。そうならないうちにさっさと出撃して、展開切り替えしないと早々にシャットダウンされちゃうんだからね!」
「待て、ありす。俺にはお前がなに言ってるのかいまいちよく分からない。混乱して訳の分からないことを口走るのはよせ」
「そんなことはいいから、早く早く!」
ありすは足早に二号機、ツインストームのコクピットに乗り込み、早乙女、そしてヤスオが仕方なく続く。ハカセを思い切り蹴り飛ばしたい衝動を抑えつつ。
早乙女が三号機に乗り込むうち、二号機は台座ごとせり上がり、天井が開く。そこから滑走路に出られる構造なのはヤスオにも想像ができた。続いて早乙女の乗り込んだ三号機、グランドカイザーも天井へと吸い込まれてゆく。ヤスオも続いてコクピットに乗り込もうとした。が、そこでヤスオの動きが止まった。




