第弐拾伍話 早乙女到着。福音は彼方より
スパイマンが通信を切るとさらに地響きが続く。クイーンミダラが地上に攻撃をしているのはもう明白だった。
「この親にしてこの子ありだな。オッサンがミルキーフェイスとパーティーしてると知ったら助の字はどうするんだろうな。ドロドロの骨肉の争いになりそうで心配だぜ」
「言うな。もうハカセは悪魔と契約したのだ。実の息子であろうと、彼女たちが欲しいと言い出すようなら排除するまでだ。ハカセのミルキーフェイスはただの一人として、他の男に渡すつもりはない!」
「頼もしい限りだ。それでこそ俺の心のアニキだな。よし! オッサンの覚悟も決まったようだし、いよいよ出撃といこうか!」
ヤスオが振り向いて拳を突き出すと、ありすと鬼椿も頷く。だが、再びハカセがそれを制した。
「ふふふ。まあそう逸るな。やはり運命は我々に味方していたらしい。ハカセよ、極楽楽座を手にしろ、とな」
「するってえと、まさか、きたのか? 三人目のパイロットが」
「ああ。アメリカ留学から一時帰国し、いま到着したと入り口のインターホンから通信が入った。もう、すぐそこまで来ている」
ハカセは非常口のランプが灯る一枚のドアに目をやった。ヤスオも思わず唾を飲む。そして何度目かの地響きの後、ドアに仕込まれている赤いランプが点灯し、静かに開き始めた。
「紹介しよう! タイヘーン三号機パイロット。君達のチームメイト最後の一人、早乙女早苗君だ!」
ハカセが言い放つと同時にドアも開ききり、そこにはブーメランパンツ一枚を身に付けた、早い話がほとんど全裸の、色黒でマッチョなスキンヘッドがマッスルポーズを取っていた。もちろんその表情は暑苦しいまでのマッスルスマイルである。ヤスオは愕然とし、あんぐりと開いた口を閉じる術さえ知らない。
「ハッハッハー。初めまして! 僕のマッスルフレンドたち。元気にトレーニングしてたかな? 君たちと共に汗を流すマッスルヒーロー、早乙女早苗です! さあ、とりあえずお近づきの挨拶にヒンズースクワット五百回から始めようか! マッスルマッスル」
いきなりスクワットを始めた早乙女を無視してヤスオがハカセの首を締め上げる。
「この産廃野郎が! なんなんだよ、こいつは! 早乙女早苗なんて名前で奥ゆかしい大和撫子だと思わせてからのオイルテラテラ筋肉バカじゃねえか! 隕石衝突級の肩透かしを何度食らわせりゃ気が済むんだ」
「ぐげげ、お、落ち着け。まずは話を聞いてくれ。いや、その前に離してくれ。話する前にオチそうだ」
ヤスオが鼻息も荒く、仕方なしに手を離す。早乙女は一人でスクワットを続けている。
「すまん。実はハカセも女性だと思ったんだ。早乙女君を採用したのは書類選考でな。日ペンのヒミコちゃんが書いたような達筆で、趣味は体を動かすとか、特技は料理とか書いてあったから、てっきり女性だと思っていた」




