第弐拾弐話 父に捧ぐ歌
「ああ、そうだよ。いや、正確には助ノ助は愛人の息子だから取り立てて問題にはならんはずだ。たまたまスパイとして雇った人材が余人に代えがたかっただけのことだな、うん」
「愛人どころか隠し子までいんのかよ! 二重に驚きだよ! しかもそいつをコネ採用してんのかよ。むしろ大問題だろ。嫡出子を採用するよりタチ悪いわ。ついでに助ノ助って名前も随分適当だよな。いかにも隠し子なんでとりあえずつけました感が丸見えだわ」
「どうしたの? 今日のパパはいつもと違うじゃない。もうちょっと元気だしていこうよ」
「もうパパってのは否定しないのな。まあ割とどうでもいいしな。それなんだがよ、このオッサン、さっき鴨葱に動くなって釘刺されてやんの。おまけに博士号の取得にもなんか圧力かけて取らせないみたいなこと言われて、すっかりテンション激低状態なんだわ。そういうわけでこっちは精神コマンドも使えねえ。息子としてなんか建設的なこと言ってやれ」
「やれやれ、またかい? パパ、いつも言ってるじゃないか。肩書きなんて身を飾るアクセサリーに過ぎない。困ったときに売り払える分、アクセサリーの方がまだいい。肝心なのはそれを身につける人間が、肩書きに恥じない志を持っているかなんだ。肩書きに固執している間はそれにふさわしい中身が伴っていない証だ。そんな肩書きなら、重荷になるばかりでなんの意味もない。パパがなんの肩書きのない人間でも、僕がパパを尊敬していることに変わりなはい。パパにはもっと誇りを持っていてほしいんだよ。肩書きなんて薄っぺらなものに振り回されない、志という誇りをね」
「なんかすっげえいいこと言ってるっぽいけど、コネ採用の奴の口から出ると全部嘘くさく聞こえるな、なんて身も蓋もないことはオッサンとその息子の名誉のためにも、口に出しては言わないけども! まあとにかくこっちはこっちでなんとかする。お前は引き続き情報収集と索敵任務を続行。またなにか動きがあったら追って連絡しろ」
「了解。できるだけ迅速に頼むよ。でも早く動くのは敵と戦うだけにしてよね。プライベートでまで早過ぎるとカノジョに振られちゃうからね」
スパイマンは下ネタを置き土産に通信を切った。ヤスオがハカセに相対する。
「おい、聞いただろ。もう一刻の猶予もねえんだ。敵が動き出したんだよ。好戦的な大人どもが市街戦をやらかすのは目に見えてる。そうなる前に俺たちが出て目一杯暴れとかないと、なんか損した気分になるだろ。だから、連中に先んじて俺たちが出るんだ!」
「出るんだ、と言われてもな。Xの承認は得たのか? 今からお前が取るのか? そんなわけあるまい。馬鹿馬鹿しい。お前が言ってるのは子供の理屈だ。世の中は大人の事情で動いてるんだ。敵が現れたからさあ戦いましょうなんていうのは低年齢対象のゲームかアニメでやってくれ」




