第弐拾壱話 Sが止まらない
「お疲れ、荒死郎。あの議員の言い分にはボクも頭にきたから、気持ちよかったよ」
「おえらいざんにあぞごまでいうなんでやるよでー。おでいさんほれなおじじゃっだー」
「おう! 任せとけ。お前らの分も言っといてやったぜ」
ヤスオが親指を立て、二人に応えるとハカセも力なく立ち上がった。
「そんなことをしてなんになる。どうせもう今年の博士号取得は事実上ありえないんだ。スーパーロボットを作っても、なにもいいことなかったな。あーあ、早く来年になんないかなー」
「まあまあ。ハカセ、そんなに落ち込まなくても、前向きに生きてればきっといいことあるよ」
「男の娘になるほど屈折してるありすに励まされてもとても前向きになるとも思えねえけどな。それに大体、こいつは博士じゃねえんだから、もうハカセと呼ぶのはよせ。これからこのオッサンの呼び方はオッサンに認定な」
すると、またも大きな地響きが起きた。鬼椿がヤスオの腕に絡みつく。
「なにごれー。どっがでがいだいごうじでもやっでんどー? ごうじろう、おでいさんのべやにおいでよー。ぎょうはごわぐでねむれぞうにないがら、あざまでのみあがぞうよ」
「なに言ってんのか分かんねえけど、とりあえず遠慮しときます。てゆうか、俺の腕にしがみつく前にタバコの火は消した方がいいと思うんですけど」
ヤスオが鬼椿を引き剥がそうと悪戦苦闘していると、モニターに通信が入り、スパイマンが映し出された。
「もしもしみんな、勢揃いしてる? もちろんしてるよね。正義のチームはいつでも全員集合してなくっちゃね。地上では今、大変なことが起こってるよ」
「ああ、そうだろうな。お前が死んでなかったのが一番の痛恨事だ。てっきり死んだものと思って香典まであげてたのに、無駄になっちまったよ」
「ごめんね、心配かけちゃって。でも、正義のスーパーヒーローは不死身なんだ。この世に悪がある限り、何度でも立ち上がる!」
「心配なんかしてねえし褒めてもいねえよ。それよりさっさと仕事しろ。地上でなにが起こったのか報告してきたんだろ。できるだけ手短にな」
「そっちでも揺れを感知したと思うけど、とうとうクイーンミダラが攻撃態勢に移行した。どっかの馬鹿が打ち上げ花火を面白半分で打ち込んだんだ。で、反撃を食らってそいつらの中に重傷者が出た。さっきの揺れはその反撃の余波だ」
「むしろ社会に対していいことをしたように思えるのは俺だけであろうか? 花見や成人式で大暴れする連中を爆破したくてたまらないお年寄りが絶賛の投書を新聞社に大量に送りつける姿が目に浮かぶようだ」
「僕としては穏便に話し合いで解決したかったんだけど、そうもいきそうにない。これに対して警官隊、機動隊、果てはSATや狙撃部隊まで出動してきた。武力衝突は時間の問題だろうね。唯一の救いは防衛隊は待機してるってことくらいだけど、これもいつまでもつかは分かんないな」
「くっそう。お偉いさんが勝手な真似しやがって。俺がスーパーロボットで大暴れする前にケリをつけるつもりかよ。冗談じゃねえぞ。せめてコンビナートのオイルタンクくらいはサッカーボールみたいに蹴らせろっての」
「それだよ。敵スーパーロボットに対して生身で立ち向かうのはどう考えても利口じゃない。パパ、じゃなかった。ハカセはまだ出撃命令を出さないの?」
「おいちょっと待て! いま、パパって言わなかった? もしかしてお前、あのオッサンの息子? どんだけズブズブなんだ。この組織は」
「ああ、ごめんごめん。今のナシね。正義のヒーローが正体を明かすのはNGなんだ」
「とかなんとか言ってるけど、そうなのか? オッサン。よく結婚できたもんだな。てっきり独身貴族だと思ってたぞ」
だがハカセはヤスオの問いに投げやり気味に答えるばかりだった。




