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第壱話 巨大ロボットを受け取りに来た男

 エレベーターが地下の最下層に到着する。二重のドアが横と斜めに開き、薄暗い通路が現れた。赤いライトにぼんやりと照らされて、ひと昔前のSF映画を無理に意識して作られたようなチープさが哀愁を誘う。エレベーターから一歩踏み出すと、通路が音もなく動き始めた。さすが、これほどの設備になるとお年寄りにも優しい造りだと感心したが、なんか動きがぎこちない。速度が一定ではなく、途中で止まったりして乗り心地が悪いことこの上ない。これなら歩いた方がいいかな、とも思えるが、こんなバランスの悪い状態で歩くのはさらに危険だった。

 脳内計測で百メートルほど進むと突き当りにドアが見えた。ドアの上部には関係者以外立ち入り禁止と表示されており、右側に設置されている端末に受け取ったコードをかざす。

 端末が電子音を鳴らし、認証とディスプレイに表示されるとドアが開いた。

 室内には訳の分からんガラクタ、もとい機械類が所狭しと並べられており、その中央に白衣を着た一人の男が自転車の形を模した、トレーニングマシンに跨っていた。

 白衣の男は振り向きもせず、自己紹介を始めた。

「待っていたよ。破天荒死郎君。地球最終防衛拠点、エデンへようこそ。私がここの創設者兼、最高責任者兼、総司令官兼、管理人兼、専属技術者兼、総合マルチプロデューサーを務める、権護道段だ」

 そのやたら長い肩書きはとにかく偉いというより、明らかに人員が不足しているとしか思えない。白衣の男が顔を向けた。その容貌はボサボサの頭に髭面。鼻がでかくて手塚治虫の漫画に出てくるハカセの姿を無理矢理作ってる感が否めない。

「まあ、言いにくければハカセと呼んでくれて構わない。いや、むしろハカセと呼んでくれ。てゆうか、ハカセと呼べ。パッション大陸のテーマは弾けないけど。ぷぷっ」

 ハカセと呼ばれたいらしい男は口に手を当て小さく笑った。恐らくこの男のツカミなのだろう。ヤスオは個人認証端末。分かりやすく言うところの現代のスマホっぽいものを取り出し、ハカセに向けた。

「ではハカセ。単刀直入に聞くが、こいつを送ってきたのはアンタか?」

 手にした端末には萌え系美少女イラストと共に、怪しい文言が並んでいた。

『おめでとうございます! 破天さんはこの度、巨大ロボットのパイロットに選ばれました! 契約料に二千円お支払いいただけると、一回の出撃の度に、な、なんと! 五百円の現金をプレゼント! さらにキャンペーン期間中にご登録いただいた方にはマッタリーズコーヒーのクーポンが付いてきます。気になったらコチラのURLに登録のうえ、空メールを送ってネ。待ってるよーん』

 ハカセは相変わらずサイクルマシンに乗ったまま、にやりと笑った。

「いかにも。そのメールは私が作成した。名付けてパイロットゲッター。そのメールが君に届き、返信したということは、君には優れたパイロットの適正があるということなのだよ」

「……なんか、すっげえ騙されてるような感じしかしないんだけど、俺以外でこれに返信した奴って、いんの?」

「……とにかく、君は選ばれしモノだ。おめでとう。破天君」

「おい、お前今俺の質問スルーしただろ。聞こえて聞こえないフリしただろ」

 ハカセはおもむろにサイクルマシンから降りる。

「だが、私は君に謝罪するべきなのかもしれない。君がこれから背負う運命はあまりにも過酷だ。それほどまでに、この星は今、危機的状況にあるのだ。その責任の重さに君は耐えられないと思うかもしれない。逃げ出したくなるかもしれない」

「え? なに? もしかして、もう始まってる? 拒否権とかないの?」

「だが! 私は信じている! 君ならばこの地球を救うことができる! どんな苦難も乗り越えられる! なぜなら、パイロットゲッターの選んだ男だから! それが君だからだ! 破天荒死郎君!」

「あ、別に言うまでもないと思うけど、俺の本名、今北ヤスオだから。それただのハンドルネームだから」

 その瞬間、ハカセは目を剥き、口をあんぐりと開け、膝を折った。

「まさかとは思うけど、本名とか思ってた? いや、ありえないっしょ。漫画やアニメじゃあるまいし。親がどんだけドキュンでも、さすがにこんな恥ずかしい名前はないでしょ。出生届出しても受付が拒否るでしょ」

 しばらく愕然としていたハカセだったが、すぐに立ち上がり、白衣の襟を直す。

「君は今日からコードネーム、破天荒死郎として生まれ変わった。なんの取り柄もないオタクでニートな引き籠りの小市民、今北ヤスオは今日死んだ」

「ああもう、めんどくせえな。いいよ、いいよ。もうなんでもいいから、パイロットでもなんでもやるから、早くクーポンくれよ。で? どうやったらその巨大ロボっての、ダウンロードできんの?」

「ふふふ。そう慌てるな。君が搭乗する機体はすでにロールアウトしている。あのドアの前に立ちたまえ」

 ハカセは一枚のドアを指差し、再びサイクルマシンに跨る。ヤスオが言われたとおりにドアの前に立つと、自動ドアが開く。

「ふんっ」

 ハカセが気合を発してマシンのペダルを漕ぐ。するとヤスオの目の前の床がまたもぎこちなく動き出した。

「なんだよこれ? もしかしてこの廊下、人力? そのペダルで動かすシステム? いらねー。もう止めろよ。普通に歩くから。その方が早くて安全だから」

「そ、そう? 床が動いた方が近未来っぽくていいかと思ったんだけど、いらなかった?」

 言いながらハカセは肩で息をしている。床を動かすのは結構体力を要するようだった。


挿絵(By みてみん)

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