第拾漆話 報道の矜持
画面は国会前に移り、フラッシュの中、憮然とした表情で出てくる鴨葱議員を複数のメディアが囲む。
「鴨葱議員! 今回の巨大ロボット騒動にはロボキッズ王国の関与が疑われていますが、議員ご自身はどう思われますか?」
「王国の地下では兵器開発が行われているとの指摘がありますが、それは事実ですか?」
「もし今回の騒動が王国が関わったものなら、議員ご自身の進退についてはどうお考えなのでしょうか?」
だが鴨葱は一瞥もくれず、SPに促されるまま公用車に乗り込み無言で去っていった。
「なんだよ。こんな奴がフィクサーなのかよ。感じ悪いな」
モニターにヤスオが悪態をつく。ハカセがフォローを入れる。
「まあ、議員は表立って動けない立場だからな。今回の一件で名前が出たのは青天の霹靂だろう。そこのところは理解しろ」
再び画面はスタジオに戻る。
「えー、鴨葱議員は今のところ沈黙を守っております。おっと、現場でなにか動きがあった模様です。山下さん、そちらはどうなってますか?」
「はい、こちら現場です。到着した警官隊がメガホンを使ってロボットに警告を発しています。器物破損、傷害、威力業務妨害などを働いた罪で、犯人の投降を促しているようです。あっ。ロボットが動き始めました。分かりますか? こちらを見るように顔を向けています。なにやら指先が光っているようにも見えます。これが大勢の人を襲ったという光線なのでしょうか? ああっ! 光が発射されました! こちらへ飛んで……あーっ」
レポーターの悲鳴と共に突然ノイズが走り、画像が乱れブラックアウト。画面がスタジオに戻る。
「えー、中継車の方で大変お見苦しい場面がございました。番組スタッフになり代わりまして、視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます。さて! いよいよ皆さんお待ちかね、山本ターザンゆみこさん自殺未遂の詳報でございます。ここからは芸能リポーターの下瀬和さんに詳しく解説していただきましょう。その前に、一旦CMです」
「……さすが蛭根精一。どんなときでも泰然自若だな。国民的司会者の面目躍如といったところか。ついでにスパイマンも死んでくれれば万々歳なんだが」
「やっと前菜も終わって、いよいよメインだ。ここからが蛭根の腕の見せ所だぞ」
画面に食い入る二人にありすが水を差す。
「ちょっと! ボクたちは敵のスーパーロボットに注力しなくちゃ駄目なんじゃないの? こんな落ち目のタレントが話題作りでやってる不倫騒動なんか見てる場合じゃないよ」
「うるせえな。萎えること言うなよ。もしかすると本当に不倫して自殺未遂してるのかもしれねえじゃねえか。そのまさかがあるからこそのワイドショーだろうがよ」
「荒死郎。気持ちは分かるが、ありす君の言い分にも一理ある。このヒルネ屋は録画しといてやるから、ここは我慢して敵スーパーロボットに一致団結して当たろうではないか」
「チッ。仕方ねえな。んじゃ、さっさとあの忌々しい愉快犯を片付けに行こうぜ。いよいよ俺様が一号機に乗り込んで出撃するときが来たようだな」
「まあ待て。慌てるんじゃない。パイロットだけでは戦いには勝てん。周到に戦略を練り、確実に勝てる作戦を立てて敵に臨むのが勝者の戦い方だ」




