第拾陸話 引きずり出された黒幕
「おい、こいつスパイマンじゃねえか。信じられねえ。こんな変質者みたいな格好で通報されないどころか、一般ピーポーとしてテレビ出演してやがる。もしかして、本当に凄腕のスパイなのか?」
ヤスオの疑問をよそに、レポーターにマイクを向けられたスパイマンがなぜか裏声でコメントする。
「いやーもう、びっくりしたっスよ。いきなり巨大ロボが現れて攻撃してきしたんっスから。いや、最初のうちは自己紹介とかしてきてー、友好的な態度だったんスけどね、いきなりどかーんって衝撃波打ってきて、気持ち悪い光線とか出してきたんっスよ」
「なんだよこいつ。俺等には本当にどうでもいい情報しか出さなかったくせに、カメラの前ではめちゃくちゃ詳細に伝えてんじゃん。あとどうでもいいけど、なんでパシリ口調なんだ?」
「これはスパイマンの特殊スキル。擬態の術だ。スパイマンは状況に応じて十の人格を自在に使い分けることができるのだ」
「人格以前に、このコスチュームを変える能力はないのな。それよりも、こいつはどういうもりでテレビなんぞに出演してんだ。スパイがメディアに露出するのってどうよ」
レポーターはさらにコメントを求める。
「それにしてもあのロボットはなんなのでしょう。あなたはどのように思いますか?」
「そーっスねー。丁度隣にロボッ特区のロボキッズ王国があるけど、そこの刺客じゃないんスかねー。なんかあそこ、最近ぱっとしないしー、話題作りの一環? てやつじゃないんスかあ?」
「おい。こいつ、言うに事欠いて実にもっともらしい濡れ衣を着せてるぞ。本当にここの諜報部員か? 待遇への不満を募らせて自爆テロを起してるんじゃないのか?」
「心配は無用だ。これはいかにも頭の悪い一般人を装い、誰でも思いつきそうな推理を披露することにより、逆に世間の疑いの目を逸らすという高度な戦術なのだ」
「俺の目には疑われてるのにも気付かずに、現場付近でノコノコインタビューに答えるバカな犯人にしか見えねえんだけど、オッサンがそう思ってんなら止めはしねえよ」
すると画面はスタジオに切り替わり、蛭根がコメントを返す。
「はい、よく分かりました。ここで、当番組のスタッフがロボキッズ王国の経済特区指定に指導力を発揮した鴨葱議員のインタビューに向かったので、そちらに繋いでみましょう」
このコメントにハカセの顔色が変わる。
「なんてことだ。このエデンの創設に関わった中心人物であり、フィクサーともいえる鴨葱議員が早くも矢面に立たされるとは。この最高機密は誰にも知られてはいけないというのに」
「それって最高機密なのか? フツーに考えて、誰でも思い当たりそうな黒幕じゃね?」




