第拾伍話 偽りの愛の果てに
ハカセがチャンネルらしきダイアルを回すと、折りよく国民的ワイドショー、ヒルネ屋のオープニングが流れた。
「おう、ジャストで始まったところだ。どれどれ、例の山本ターザンゆみこの不倫問題はどうなったのかな?」
「早速脇道に逸れてんじゃねえ。今は不倫問題なんかより敵のスーパーロボットだろ。いや、実は俺もぶっちゃけ、ロボットよりも不倫のほうが気になるんだけど」
やがてオープニングも終わり、画面にはメインキャスター、蛭根精一が映し出され挨拶する。
「皆様、いかがお過ごしでしょうか。ヒルネ屋の時間がやってまいりました。さて、本日は大変なニュースが飛び込んでまいりました。かねてから世間の注目を集めている山本ターザンゆみこさんの不倫問題ですが、なんと、山本さんが本日未明自宅において、自殺を図ったということです」
「うおお、すっげー! ついに山タン自殺未遂かよ! どえらいことになったな。不倫相手の夜野ネオンはどう責任取るつもりなんだろ。もう卒論だな。卒論」
「ブレるんじゃない! この自殺騒動は恐らく狂言だ。世間の耳目を不倫から逸らせて問題をウヤムヤにする腹づもりなのだろう。敵の陽動に惑わされてはいけない。まずは原点である不倫問題をきっちり検証すべきだ」
「さて、山本さんの安否、不倫相手の夜野ネオンさんの動向など、視聴者の皆様には気になるところがたくさんあると思いますが、この事件は編集の都合もございますので三十分ほど後に、たっぷりと時間を割いてお送りする予定です」
「三十分後かよー! あざといにもほどがある。視聴者を釘付けにしたい編成部の事情は分かるけど」
「まあ、ワイドショーの常套手段だな。裏番のグッジョビ! に、してみようか? もしかするとこの事件をトップに持ってきているかもしれん」
ヤスオが同意しかけたとき、画面の蛭根精一がスタジオ内のメインモニターに手をかざした。
「では、本日のトップはこれです。なんと、政府の地方創生の目玉として期待されたアダル特区、極楽楽座ですが、本日のライブ中、突如巨大ロボットが上空に現れるという、アニメのような珍事が発生しました。それでは、早速現場に繋いでみましょう。現場の山下モナカさーん」
「はーい! 現場の山下でーす。蛭根さーん! ご覧ください。いま、まさに巨大なロボットが、会場内に設置されたステージ上空に不気味に浮かんでいます。念のために言っておきますが、これは特撮でも、プロジェクションマッピングでもありませーん。つい先ほど、会場内の人たちが謎の攻撃を受け、被害が出たとの報告もありまーす」
「それは心配ですねえ。被害者の状況はどうなっていますか?」
「現在は駆けつけた消防に保護され、全員軽傷だとのことです。幸いにも死者は出ていません」
「分かりました。ところで、このロボットは一体なんなんでしょう? 山下さん、そちらでなにか情報は得られたのでしょうか」
「はい。現在、警察が目撃者から聞き込みをしているということです。私達も、偶然現場に居合わせた、こちらのコスプレ男性に話を聞いてみたいと思います」
レポーターがそう言ってカメラの前に連れてきた人物に三人は目を見張った。




