第拾肆話 背徳の堕天使、裏切りのありす
「自慢じゃないが、極楽楽座の各所には我等の管理下にある監視カメラが複数存在する。こんなこともあろうかと、スパイマンに命じて仕掛けさせておいたのだ。我ながら自分の先見性が恐ろしい」
「嘘つけ。どうせ極楽楽座にいいようにやられて、なにか弱みでも握って脅迫とかする魂胆だったんだろ。それよりも、さっきからありすが俺の腕にしがみついたまま離れないんだけど、なんとか剥がす薬品とかねえの?」
「うむ。監視網はベリエザスのハッキングを受けていない。これならば極楽楽座でなにが起こっているか、大まかなところは分かるはずだ」
ハカセがコンソールを操作すると複数に分割された画面がモニターに映し出された。
「……おいオッサン、なにが起こってるかとか言う以前に、どのカメラも女子更衣室とか、女子トイレをモニターしているようにしか見えないのは俺の心が腐ってるからなのか?」
「妙だな。スパイマンには汚職の証拠を掴めそうな事務所や会議室を押さえとけと言っておいたはずなんだが。やっぱり敵のハッキングを受けてるんだな。きっとカメラの回線が混線してるんだ。おのれベリエザス。小癪な真似を」
「仕方がない。とりあえず時間を巻き戻して今朝のステージの開演前から再生してみようぜ。なにか異変でもあったかもしれない。なんだったらDVDにでも焼いて渡してくれれば俺が家に持って帰ってボランティアでチェックしといてやるよ」
「ありす、オーン!」
掛け声と共にありすがデリートキーを押し、すべての記録が消去された。
「この餓鬼! なんてことしやがる! 俺のマジックミラー号、じゃなかった。敵の正体を知る唯一の手がかりを消しやがって。これでもう全部終わったぞ。地球の運命終わったぞ。全部手前のせいだからな!」
ヤスオが涙目でありすの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「地球の運命が終わってもノゾキは駄目なんだもん! ありすは悪くないもん! 荒死郎はボク以外のコの裸なんか見ちゃ駄目なんだもん! 犯罪はいけないと思います!」
「落ち着くんだ! 二人とも。ここで仲間割れを起してどうする。これは恐らくベリエザスの罠だ。敵が仕掛けた離間の計だというのが分からんのか!」
「元はといえば手前の盗撮が元凶だろうが! じゃあどうすんだよ! 情報を集めようにもカメラの映像はなくなったし、諜報部はどう考えたって役立たずじゃねえか! ついでに言っとくが俺が頭にきてんのは地球の危機だからであって、決して下世話なスケベ心からじゃねえからな!」
「安心しろ。こんなこともあろうかと、このモニターはテレビとしての機能も備えてある。今の時間なら丁度ヒルネ屋をやってるはずだ。芸能人が逮捕でもされてなければこの地球的危機はトップで報道される」
「ここにきて頼るのはヒルネ屋かよ。もう諜報部いらねえな。ついでにあのスパイマンも解雇しとけ。雇っといても後々ロクなことにならねえから」




