第拾話 眠れ、永遠の夢の中で
突然のステージの再開に観客のテンションも上がる。いまだ空中に静止するクイーンミダラに立ち向かうかのように、ミルキーフェイスのメンバーが重低音に合わせてリズムを取り、歌い始めた。
「駆けろ駆けろー、元気よくー、駆けろ駆けろー、思い切りー」
が、彼女たちの歌がサビに入る前に、無情にもクイーンミダラの指先から無数の光体がほとばしり、観客もろともミルキーフェイスのメンバーは吹き飛ばされた。
「一体なんだったのよ、あいつら。私達を恐れる風でもなく、いきなり危険極まりない歌なんか歌いだして。この星じゃ巨大ロボには歌で対抗するのが不文律なの?」
ミルキーフェイスの決死の抵抗にベリエザスは当惑を禁じえない。
「どうも話の行き違いがあったようですね。我々をなにかタチの悪いいたずらかなにかと勘違いしていた節があります。もう説明するのも面倒なのでタチの悪いいたずらという体で攻撃しておきました」
「あっそ。全員殺しちゃったの?」
「いえ、ここにいる全員には愚かしい勘違いを自戒していただくために眠っていただきました。この星で言うところのスタンガン級のショックにクロロホルム級の昏睡性を付与しておいたので、最期の夢を楽しんでいることでしょう」
ワットアネントの言ったとおり、観客もミルキーフェイスもいい夢を見ているようで、皆だらしなくも幸せそうな寝相である。ベリエザスには彼らの生態がいまいちよく分からない。
「おバカで救いようのない連中だけど、それだけに愛嬌があるわね。核兵器で迎撃してくるもんかと思ってた分、調子が狂っちゃうねえ。ま、遅かれ早かれ滅亡することになるんだけどさ。ワットアネント、この星の連中は私達の存在に気付いてんの?」
「文明レベルがまだ原始知的生命体の域を出ていないので不明ですが、さすがにキャッチはしているのではないかと。数時間後にはなんらかのリアクションがあるのではないでしょうか。我々が移動しなければの話ですが」
「じゃあここに留まり続けるのも一興よね。敵対行為に出てきた奴らを片端から返り討ちにする方が愉快かも。下手に動き回って定見がないと思われるのも癪だし」
クイーンミダラは空中に静止したまま、動くことはなかった。




