第玖話 妖精が舞う滅亡への序曲
ベリエザスとワットアネントが地球人の反応に当惑している間、観客が肉の壁となり、奇跡的に無傷で済んだミルキーフェイスのメンバーが突如出現したクイーンミダラに敵愾心を燃やす。
「くっそう。なんなのよ、アイツ。いきなり乱入して、ウチらのステージめちゃくちゃにしやがって。アンタたち、怪我はない?」
リーダーの結城川クミコがメンバーの安否を確認する。
「はいいー。と、とりあえずみんな、怪我とかはないっぽいですうー。ファンのみんなが身を挺して守ってくれましたからー」
ナンバーツーのマグロ系女優、甲森ひとみが報告を上げる。
「リーダー、ありゃあ多分、隣のロボキッズ王国のイヤガラセやで。連中、ワイらに集客で勝てへんもんやさかい、いよいよ尻に火ぃついて、カチ込みかけてきよったんや」
方言で人気を博すマウンティング系女優、宇間のり子が生来の負けん気でメンバーを励ますが、ほとんどのメンバーがパニックを起していた。
「ひどい! 信じらんない! 私達がなにしたっていうの? ファンの人たちとの交流を、どうして邪魔するようなことができるの!」
メンバーで最も人気の高い癒し系女優、AWA☆美は頭を抱えてしゃがみこみ、ショックで泣き喚いている。その他のメンバーも概ね同じような状態だった。
「アンタたち、まだ動けるね? 声も出るね? じゃあ、やることはひとつだよ」
「はわわー。どうするんですかあ。今すぐ逃げるんですかあ。ファンの皆さんを置いて逃げれませえん」
「馬鹿! 逃げるわけないだろ! 機材は駄目になっちゃったけど、力の限り歌うんだよ!」
「いや、リーダー。歌う、かて、ワイら口パクユニットやで。それにこんな状態で歌うて、どないなるっちゅうねん」
「ウチらにできることは撮影と歌うことだけだろ。歌ってみんなに元気を与えて、ステージを最後までやりきるのがウチらの仕事だよ。あそこに浮かんでるロボキッズ王国のクソ野郎どもに、こんな陰険な妨害には屈しないってとこ、見せてやるんだ」
「私も、クミコさんの言うとおりだと思います。私達は歌って踊って業界に愛と平和と夢を届けるセクシーユニット、ミルキーフェイスじゃないですか。その私達がこの程度で挫けてちゃ駄目です。みんな、怖いのも逃げ出したいのも分かるけど、ここは勇気を出して、歌を歌ってあのロボットさんに幸せを届けましょう!」
いつも控えめな甲森ひとみの発破に、さっきまで怯えていたメンバーが次々と立ち上がり、リーダー、結城川クミコの元に集まる。
「私達、やります。撮影現場ではもっと辛い目にも遭ってきたんですもの。この程度、どうってことありません!」
AWA☆美が皆を代表して決意表明すると、結城川も拳を突き出し、それに応える。
「ありがとう。みんなの気持ち、確かに受け取った。勇気が湧く、結城川クミコ。みんなの命を預かったからには、力の限り歌うからね。さあ、あそこに浮かんでるロボキッズ王国の童貞野郎に、愛の素晴らしさを教えてやろうぜ!」
メンバー全員が結城川の拳に手を乗せた。脱落者は一人もいなかった。
やがてメンバーがそれぞれの立ち位置に散り、機械に強い企画系女優、でんきこうりえがチェックすると、幸い機材は死んでおらず、すぐに大音量のバックミュージックが流れ始めた。




