朱雀さんの愛情表現92
老人はニタニタと笑いながら不用意に近づいてきた。
その自然すぎる動きがかえって警戒心をあおった。
「それ以上近寄ったら切りますよ」一応警告はした。
だが一向に動きも表情も変わらない
答えはなく、草むらに虫が鳴いたそれと同時に朱雀が抜き打ちに刀を放った。
片方の手首が飛んだ
それから刀を持ったまま、くるっと回り、黒鳥のフォッテの要領でもう一方の手首を蹴った
乾いた木の枝が折れるようにな音がして手首は反対側に曲がった。
そこからもう一度回り相手を見た。
出血がない、こちらも見ない、その体がぐらりとかしいで倒れた。
おかしい、人間と変わらないそれ以上の枯れ木のような感触だった。
ふと、足元に小さいけれど毒々しい小さな、クモが走ったのが見えた。
倒れた老人の背中がふくらみだし急に大きくなり、濡れ色の毒々しい紫の大きなこぶが表れた
(土蜘蛛か)朱雀は思った。
あれが本体、気の毒な老人の屍はおとりだった
朱雀は、体制を立て直しながら悟って忌々しく思った。
一人で戦うことによって朱雀は、役に立ち恩を返したかった
戦闘妖怪としての証も立てたかったのに・・・・
こんな、厄介な相手に出会うとは、たぶん相当に年齢を重ねて、実践も重ねてきている
そして奴は、殺した相手に擬態する。
自分がもしつかまって操られたらみんなを巻き沿いにしてしまう
そんな思考がよぎったが体が勝手に動いて思い切り跳躍して、上から逆袈裟懸に
刀を一閃させた。
普通なら、致命傷になるはずなのに、小さな叫び声を漏らしたのは朱雀のほうだった
相手は、粘液に覆われていてそれで体を守っている。
おまけに、着物に跳ね返ったそれが硫酸のように布を溶かし着物に穴を作った
だが、それを気にしている暇はなかった
急に飛びだしてきた、毒々しい、紫の足が、とがった先端で自分の胸をつら抜こうとして
まっすぐ向かってきていた。
朱雀はとっさに床の上にぺたんと開脚しながら素早く刀を振った。
風を切る音がすると同時にその先端が飛んだ
足には粘液はついていない、切っても何も出ない
一瞬安堵したが、もう図たズタボロになった老人の体から同じような足が何本も
出てくるのを見て、ぞくりと寒気が走った