朱雀さんの愛情表現89
正面からいったのは小細工が通用しない相手であると本能的に悟ったからである。
相手がどういう動きをするものか、わからない場合、奇襲は逆に命取りになる。
罠はない、たまに入った土間に落とし穴が、ほってあったり、大きな先のとがった木切れが飛んできたり
長く一人で、一か所で暮らすものは生き伸びるために様々な工夫をする。
その点は葛の葉に確認してもらってある。
こけおどしでも恐慌におちいってしまえば終わりだがここには何もない。
ただし、においがした、今まで嗅いだこともないほどの大量の血の匂い
なぜこんなところにいるのいるのか少しわかった、単純な理由は食べるためだ
後は、なにかの腐臭、壊疽のにおいがした、大体が床下からそれから奥のほうに続いている。
だが、座っていたのは、小さな老人だった。
板の間の真ん中に、小さな囲炉裏がある。
床を見た、ところどころに補修したような跡がある
「だれだね」初めて老人が振り返った。
顔に刀傷があり片目が半分ふさがっていたそれ以外はいたって普通に見える。
「返してもらいたいものがあります」朱雀は言った。
「お前さんはなんだい?」
「名乗るほどのものではありませんから、要件を先に言います、雪礫姫様のところから持って行ったも
のです」
「雪礫姫?」
「わかっておいででしょう、あなたに必要なのは、血と肉でしょう、魂は必要ないはずです」
部屋の悪臭がひどくなってきたような気がする。
老人の体がのっそりと動いた。
作り笑いを浮かべている。
朱雀はなるべく姿勢をくづさず立っていた。




