朱雀さんの愛情表現86
「わたくしは?」
葛の葉が言った。
「お前はいいよ、体がないじゃないか」
姫に変わった婆様が言った、声もしゃがれてはいなかったが、同じ口調で・・・
「私もまいります」前任の白虎が言ったが首を振った。
「今は上で仕事をしているんだろう、こんなことにかかわることはない
私は私のものを取り返しに行くだけさ」
婆様こと雪礫姫様は、無意味な悪意と破壊が振りかかってきたときの痛みを思い出していた。
真っ暗な木々のトンネルを抜けた先には、低木のある少し開けた場所がある。
地面は低くなり、高くなり
空の色も濃くなって淡くなって、その先に庵が見える。
そこを目指してしっかりとした足取りで歩き出した。
小道に、草が折れて誰かが何回か出入りしたことを示していた。
頭の中で記憶が音を立てる。
以前、自分が何も知らない姫だった時には、理不尽で無遠慮な出来事に優しさとか愛情と言ったもの
で立ち向かえると思った。
でも、もの事はそんなに単純ではなかった。
そしてなにも変わらず、それはただの自己犠牲にすり替わってしまった
長い間の惰性を超えて婆様は歩き出した。
朱雀と白虎が後に続く
その後ろ姿を見送りながら、葛の葉が言った。
「あなた様はわたくしを殺さなくってよろしいのですか?」
「そんなことは無意味だ」前任の白虎が言った。
「でも、今殺しておかないと同じ事を繰り返しますわ」葛の葉が目を伏せて言った。




