朱雀さんの愛情表現74
婆様は店に入ってため息をついた。
やはり体がつらい
その時、なにかの気配を感じてはっと顔を上げた。
カギはかかっているし結界もはってある
本来なら誰も入れないはず、自分が招いたものでなければ・・・
ひんやりと温度が下がったような気がした。
陰々とした店の奥に人の輪郭が浮き上がった。
「誰だい?」婆様は、即座に臨戦態勢に入りながら言った
「私です」心ぼそい静かな声がして薄い霧のような影が葛の葉になって振り向いた。
「お前どうやって入った?」
「勝手をして申し訳ありません、まだ怒っていると思いまして」
「当たり前だよ」
婆様は言ったがその輪郭がはっきりしなくて目をこすった。
少し目が慣れてくると青白い顔の葛の葉がひざを折って床に座ったのが見えた。
「お願いがあってまいりました」
ゆっくりと言ったが奇妙な違和感がある
ふと、昔の自分を思い出した生きていたことが怖く時々錯乱しどうしていいのかわからなくなっ
てぼんやりとしていた自分を・・・
葛の葉はいつものしっかりとした生気がまるでなかった。
現実を見据え、踏まれても何とかしてそれを自分の利にひっくり返して
しまうような、狡猾さも、傍若無人さも
「体がおつらいでしょう、差し出がましいようですが今のやり方ではあなたの
体がもちません」
「お前は」
婆様はあることに思い当って言った
「薬を飲んだんだね、分量は守るって言ったのに・・・」
「もちろん、分量は守りましたが、あなた様は違いますね」
淡々と続けた。
「だから、なんだい店をやめろっていうのかい」
「いいえ、やり方を変えてほしいのです、あなたはやりすぎました
世間がうるさいからと言って自分を犠牲にするのがあなたの道理でしょうが
ここにいるこの子たちはどうなります」
そういっている間にも葛の葉の着物も輪郭も薄らいでいく
いつの間にか猫たちが葛の葉を取り囲んで座ってじっとこっちを見ている
猫たちの目が光る。
だがその光だけで猫たちまで少しずつぼやけてきたような気がする
「ここに私が考えたやり方があります、世間が憎いなら復讐をすればよろしい」
と言って巻物を置いた。
そこで初めてまっすぐに目を上げた。
その目は猫たちと同じように光っていてにっと笑った
生気はなかったが、その時初めて葛の葉の心情がわかった。
自分の錯乱状態を楽しんでいる
ちらちらと浮き静む、瞳の血気はすぐ消えてまたひんやりと温度が下がったような
気がした。
「あなたは誰もが憧れる美しさをお持ちなのですからなぜそれをつかわないのです」
その先は聞きたくなかった
「おやめ」さけんだが
きこえなかったように無視して言った。
「雪礫姫様」
そこには敗者の卑下した様子はなかったが、あらゆる感情が見当たらなかった。
冷え切った狐火のような眼の光だけがあった
その時ドンドンと戸を叩く音がした。