清明様の憂鬱 朱雀さんの愛情表現72
朱雀の発表会の日になった。
と言っても身内しかいないいないこじんまりとしたものだったが、めずらしく緊張した面持ちの朱雀は、
それでも情熱で光る眼で熱心に柔軟体操をした。
「いいか、音をよく聞け耳から入る情報のがはやいんじゃ」
「そうだ、抜刀術といっしょだ」
「いや居合じゃろう」
などと訳の分からないアドバイスを受けますます混乱したようだったが
それも音楽が鳴るまでのことで、
音楽を聴いたとたん頬の赤みが顔にさっと走って小走りにステージに
出て行った。
そしていきなりものすごい跳躍をみせた。
それはもちろん、鳥の化身のなのであたりまえと言えば当たり前なのだが
まるで、重力が上にあってそれにさっと引っ張られているような素晴らしさだった。
そこでみんな度肝を抜かれてしまったが、しなやかに両腕が伸び、音楽を捕まえて体の中に一瞬で
取り込んだ朱雀は心を集中して湧き上がる喜びであっという間に音も、光も、舞台の全てもねじ伏せ征服
してしまった。
みんな、圧倒されて、唖然として見えない金色のらせん階段を駆け上っていくような姿を見ていた。
回転に至ってはどんなCGにも劣らずバレエなど見たことも
なかった妖怪たちは呆然としていた。
繊細な肌はライトを浴びて生き生きと輝き、喜びに満ちた目は活力を備え、
血液の赤より奥にある。
紫とか静脈の持つ青のような微妙さまで感じさせた。
舞台が終わっていつもの朱雀はきらめく生命そのものに姿を変えて立っていた。
拍手と歓声が沸き起こり、泣き出した白虎や葛の葉はもちろんすましまで泣いていたし
清明様も唖然としていた。
白虎は舞台にかけよって飛び降りてきた朱雀を受け止め、朱雀は達成感で満足しきった
笑みを浮かべまたしても、白虎の迷いや憂いを吹き飛ばし、ほこりや優越感にすげかえるという
奇跡をおこない二人のきづなをより強くした。
帰り際の廊下で清明は葛の葉とならんで歩いた。
葛の葉はぐすぐすとハンカチで目をぬぐいながら
「よかったですねえ」と言った。
最初に上に飛び上がったときの跳躍のすごさが忘れられず清明も「ああ」と答えた。
大きな鳥が飛び立つときのような、そんなことを考えていると、壁からぬっと何かが出てきた
それは、大きな子熊ほどもある猫だった。
「あら、おやかた」葛の葉が言って猫を抱き上げた。
そして、猫を見て「今日は天気がいいので幸せですね」といって笑った。
「天気って、お前、太陽がにあたれないのにわからんじゃろう」と答えると
「あら わかりますわよ」といって葛の葉は猫をおしつけた。
猫を受け取った清明はその毛皮がよく温まっているのに気付いた。
たぶん夕方まで日向にいたのだろう。
「だんだらまんだらおやーかた ぽかぽか日向のにおいー」
葛の葉がでたらめな歌を歌った。




