朱雀さんの愛情表現70
「ふざけたことをいうな」青龍がうめいた。
「皮はやったんだ、絶対にうまくいく、一人でやれ」
葛の葉はまた頭がぼんやりして朱雀と青龍のやり取りを見ていた。
いつもけんかしているが、かれらのおかしな親密さ、決して途切れはしないが
家庭とは呼べない環境、それでも自分はこの生活を愛していた。
「葛の葉」呼ばれてはっとした。
このごろ、すぐに意識が飛んでしまう
「とにかく誰もわからないんだから、くろどりをやれ白鳥は、芸術性が高いがそんなもんは
わかるものにしか通じんのじゃ」
「くろどりじゃなくて黒鳥」
「どっちでもいいが、あのぐるぐる回るのは何回やるんじゃ?」
「ええと 32回くらいかな?」朱雀が言った。
「じゃあ お前は2倍回れ」
「2倍、2倍って78回?」
「どっから、そんな数字が出てくるんだ64回だろう」青龍が口をはさんだ。
「あ、そうか、でもなんでそんなに回る必要がある」朱雀が言った。
「猫族の目には、人間には見えない紫外線まで見えんのよ、ちょっとおいで」
葛の葉は近寄ってきた、朱雀の目に手を当てた。
「わしの見ている世界を見せてやる、いいか1分だけ外に出ておいで、それ以上出たらいかん」
「わかった」朱雀が出て行って 「ぎゃあああー」と悲鳴が聞こえダッシュで戻ってきた。
「ちょっとナニコレ」葛の葉は手をかざして目に当てた。
「ホラーだと一番初めに殺される役なのに足速いな」
青龍が言った。
「ナニソレ」
「ヒロインはたいていグラマーなんだ、そして乳をゆらして走ってにげまわる。
ちちなしは最初に殺される」
「なんだとー」朱雀が言ったが
「グラマーってなんじゃ」葛の葉の突っ込みに笑い出した。
「死語の世界に帰れ、この大霊界野郎」葛の葉もげらげら笑った。
「それにしても、あの赤い四角いのはなんだ」朱雀が言った。
「あれがね 芥川龍之介が見ていた 歯車 」
葛の葉が答えた。




