朱雀さんの愛児用表現106
そのあと、天ぷらが出てきた。
アナゴの卵焼き、湯葉、水菜の和え物
もともと、京都出身の清明様の好物ばかり葛の葉があらかじめ言っておいたのだ
「おう、これは豪華だな」
機嫌も上々となった。
「お前もしっかり食べろ」と言われて
「お酒をもう一杯頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああいいが、珍しいな」
「あんまり懐かしくて」
虫の声が消えると命の光も消える。
その代わりに山は一番豊かな季節を迎える。
木の葉も赤くなりそこにいぶったような木の実、栗、赤く熟した柿
季節は移り変わり移り、移り変わりかげろうのように白く静かな冬を迎える。
そこで気が付いてはっと顔をあげた。
あの人が、どんどん自分を追い越して大人になってしまったように
自分は、大人になったのに清明様は変わっていない。
(ああそうか、今度は私の番なのね)
悲しいとも、寂しいとも感じなかった。
だって、立ち去るほうより、何もできず見送るほうのがつらいもの
こういうことを考える私はやっぱりずるいのかしら
おもいながら箸をつけた。