朱雀さんの愛情表現104
まず運ばれてきたのは、白木のマスに入ったお酒だった。
「あらこれ、お酒?」葛の葉が聞いた。
「はい、でもとても飲みやすいと言ってましたにゃうなぁ」
といってシロコはにっこり笑って去っていった。
「マス酒ってこんなのでしたっけ?」
葛の葉が口元にもって行くと木の香りがした。
ただの木の香りではなく、山影の月と混じった土のにおいがうっすらと漂う濃い空に
うす紫の雲が流れる
夜の森のにおい
それもただの森ではない、自分が育った幾度となく走ったり、笑ったりキノコを
探したりした森だ
「清明様、これは・・・・」目を上げて晴明を見ると
「ああ覚えてる」と目を伏せたまま言った。
小さな、川には魚がいて、子供の自分はその隠れ場所を知っている。
魚を取って、狐火で焼いてあの人と木の枝に座って食べた
清明様が来る日もそれでもてなした。
魚と山菜と少しのキノコ
夏の初めには草の中によく動く小さな赤い点がともる。
最初は、なんだかわからなかったが
それが りんりん、ころころ 鳴きだしてから虫たちの命だとわかった。
夏になるにしたがって、赤い点はにぎやかに増えて何かの贈り物のように感じられた。
お酒は川の水の味がした。
飲むと体が熱くなって、目のふちが赤らむのがわかった
清明は幼い時の葛の葉を思い出していた。
「せーめーさまあ どうぞ どうぞ こんな遠くまでありがとうございます
おなかがすいたですか、のどが渇いたですか?
少しですが召し上がってください」
小さな葛の葉は、にこにこと手をついて言った。