朱雀さんの愛情表現⑩
肩に乗った猫が なあああん と鳴いた。
「船がついてしまう 入れてくれ」俺は言った。
「ああお入り」
老婆は体を一歩引いてドアを開けた。
「新しいお客さんかい」朱雀が黙って頭を下げた
店内は暗く俺たちは席に着いたが、それにしてもなんという趣味の悪い店だろう。
改装前より前よりもっと悪趣味になっている。
サイケデリックなのか色盲なのか派手な色のありえない組み合わせの壁紙
数えきれない瓶に詰められたなんだかわからない粉と食材、いくつかは空しくそこにあって
ホコリをかぶっている。
「そこにお座り」朱雀とならんで座った
足元を猫が通り過ぎる。
一体何匹いるのだろうか、ネコマタとは微妙に違うらしい
性悪だ
一ぴきはテーブルに乗り、朱雀を品定めするように見た後、侮蔑の表情になった。
朱雀もにらみ返す
婆様自体もスカーフのような布を巻き、なぜか貞子の様に白い髪で顔を隠している
俺は、早くも後悔した。
そうだここに来た発端と経緯説明しておかねば、俺が危ない
こんな婆の肉欲の餌食にされるわけにはいかない。
「今日は俺の用事で来たわけじゃないんだ」と言うとにたりと笑って
「わかってる」と言った。
「そっちは朱雀、式神だ」テーブルに乗って来た猫とメンチを切りあっていた
朱雀が頭を下げた。
「ちょっと待っておくれ、手を引いてくれないかい」
婆は言った。
「何で」俺が返すと
「これ」と言ってまいていた布を取って前髪を上げた。
俺は「ぎゃっ」と叫んでいきおいよく後ろのカウンターにぶつかって一回転した。
朱雀もおどろいたらしく椅子のひっくり返る音がした
大げさではない
陰惨で埃っぽい店内
ライトがあたったときその顔がはっきり見えた。
婆の顔はこれほど年取った者を見たことがない、幻術で化けている時もあるが、
まあそこまではいい、べつにいい、どうっていうことない
だがその顔には目玉がなかった
赤いぽっかりした空洞だけがあった。