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交差する運命

好きです!


このたった四文字の言葉、時間にすれば3秒にも満たないこの言葉を伝えたい。しかし伝えられないでいる。


何かと理由を見つけては逃げている。


喉の調子が悪い。

彼女が急いでるように見える

話しかけるなオーラを放っている


答えを聞きたいが聞きたくないという矛盾が自分を閉じ込める。


振られるのではという恐怖が襲ってくるのだ。


今日も彼女と話をした。他愛もない会話。どうでもいい会話。しかしそれが良かった。


その時間が好きだった。もっと彼女といたい。

彼女と話をしたい。デートもしてみたい。


「好きです」


ポツリ、学校の帰路でつぶやく。しかしそんな問いに返してくれる人なんていない。


周りには誰もいない。


誰もいないからつぶやくことができる。


しかし、誰にも聞かれていないが急に恥ずかしくなる。


こんな状態で彼女を前に言うことができるのか。


いや、言わなきゃいけない。


伝える必要がある。


彼女が自殺をする前に。






僕が彼女に気づいたのは3ヶ月前の放課後の学校の屋上だった。


その時、僕は死ぬためにそこに来ていたが先客である彼女がすでにいた。


「ちょっ、何やっているの?」


柵を今まさに越えようとしている彼女を引き止める。自殺志願者が自殺志願者を止める異様な光景。


そもそも自殺志願者同士が学校の屋上で出会うということ自体がおかしかった。


神様のイタズラとはこのことを言うのかもしれない。


今の僕はそう思って仕方ない。


あの時、彼女は何を考えていたのだろうか。


柵を越えて、飛び込む。


彼女のその決心があの時の涙には映っていた。


僕に止められ、その場に崩れ、泣きじゃくる彼女。


僕は何もしてあげることができなかった。


そんな自分が嫌で、柵を越え、飛び込みたくなる。


しかしさすがの僕でもそこでは空気は読んだ。


彼女の横で泣き止むのをただ待つ。


肩に寄り添うこともしない。


ただ横に座るだけ。


それしかしてあげられなかった。


自殺志願者の僕にはその資格はなかっただろう。しかしそこで帰ることなんてできなかった。


それから数十分すると、彼女の気持ちは落ち着いたのか、泣き止む。


その時には太陽は沈み、辺りは真っ暗になっていた。


「先ほどはすみませんでした」


澄んだ美しい声で謝る。表情は暗くて分からないが申し訳なさそうにしているのは口調でよく伝わった。


「気にしないでいいよ」


僕なんかが励ます資格がないのは承知していたが励まさずにはいられなかった。


「それより、帰ろっ」


僕は何も訊かずに明るく帰宅を促す。


「はい……」


頷いた彼女は立ち上がり、ドアに向かう。


僕もそれについていく。


「え……」


彼女はドアノブを回そうとするが回らない。


僕も回そうと試みるがやはりダメだった。


完全に施錠され、屋上に閉じ込められてしまった。

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