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アライアンス!  作者: 松脂松明
第2章
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首都侵攻

 大地を踏みしめる度に地がひび割れ、轟音が響く。高さは2メートルと半といったところか。今は針金君となってしまった岩騎士を思い出せば巨大とは言えないが、それでも見上げるような高さだ。

 ビーカーによって命令を簡単に書き換えられたインニョート遺跡群を徘徊していたエネミー達…その初期起動分が転移門を潜って到着した。


「これで、石材を積み上げるとかもしてくれればなぁ…」

「ビーカーちゃんによれば、守護対象の見た目を書き換えてるだけらしいっすから無理じゃないっすかね?移動方向を指示できるだけありがたいんっすから、あんまり文句言うとバチ当たるっすよ」


 転移門を星界人以外が使えば分解される過程で、厳密に言えば別人になってしまうようだがゴーレム達ならば心配は無い。もしかすると彼らにも魂や自我はあるのかもしれないが…。


「ま、文句は言ってこないから良いですかね」

「このゴーレム達は俺らの先祖が作ったものではないようだの、ほい!」


 すっかりほいが語尾になっているサルダの言葉に少しばかり昔を思い出してみる。確かにあの墳墓の主は人間に近いサイズのようで、ドワーフでは無かった。それにドワーフの遺跡などで登場するゴーレムは…。


「ああ、そういえばあなた方のゴーレムは金属製でしたね」

「専用の合金で作ったほうが動きが良いんだ、ほい!岩を動かすのは凄い技術ではあるんだけれども、効率が悪いんだ、ほい!」


 岩を動かす方が難しい、と聞いてケイは少しばかり考え込んだ。ゴーレムの核が(TP)を四肢を模した部分に流し込んで動き、そして同時に強化されているのだろう。理屈としてはスキルと同じだ。

 となればケイ達も力を流しやすい武器などを使えば、さらに効率良くスキルを使えるのだろうか?柄を長く改造できたように、この世界では元のデータにとらわれる必要も無い。

 頭の中で考えを巡らす。これまでは等級と強化度だけを気にしていたが、風に関する名前やテキストを冠した武器ならばケイが得意とする衝撃波を放つようなスキルは案外、強化されるかもしれない。

 しかし…ケイはそれらしき名前をろくに覚えていなかった。このあたりはカジュアルプレイヤーの欠点とも言える。仲間との交流や装備の外観を気にすることがメインであり、細かい設定は気にかけていなかったのだ。ケイに至ってはストーリーすらほとんど流し読みの有様である。

 作るか探すかと今後の目標に一つ加える。

 それはそれとして…行動の時間だ。ケイは岩人形達を引き連れて進撃を開始した。



 目指すはウガレトの首都、ター=ナ。そこに向けて巌の群れが堂々たる進行を見せている。転移門周りを守護するのは後続のゴーレム達でいい。馬鹿正直に5列縦隊を作っての行動はどちらが魔の軍勢かというような光景だ。

 街道を岩の巨人たちが踏みしめ、ヒビを入れながら進む。ケイ達と戦闘を希望したドワーフ達はその肩に乗って揺られている。最初は座っていたが尻が痛くなるので立っていたほうがマシだった。

 

 かつて覗き見たのは焼け焦げた風景だったが、既に草が芽生えだしていた。

 素晴らしきかな自然の力よ。などと思いながらケイが率いている岩の巨人たちがそれを踏みにじる。

 かつては多くの星界人(プレイヤー)が集った首都が見えてきた。


 ター=ナの集落は古代エルフの遺跡の上にできた集落という設定だ。エルフの祖先もドワーフと同じように石工としても優れていたらしい。城壁が残っており、石造りの家屋と木でできた建造物が同居する古都はいまや見る影もない。

 城壁には穴が穿たれ、木造住居は焼け落ちている。それを遠目に見ていると…矢が飛来した。強化された視覚は矢の粗末な作りを捉えていた。先日放たれたエルフの矢が優美とさえ言えたのとは比べるのも馬鹿らしい。だが粗末すぎてかえって邪悪な雰囲気を醸し出しておりケイは少しばかり感心した。


「お出迎えっすねぇ。にしてもイマイチ強くない攻撃っすけど」

「見えますか?グラッシーさん」

「大体は。城壁の上に弓持った子鬼みたいなのが隠れてるっす。ゴブリンアーチャー?だとしたらレベル低すぎって話っすけど」


 一際優れた視覚を持つグラッシーが言うのだ。間違いはあるまい。

 気になるところが無いではないが、事ここに至ってはやることなど決まっている。

 助ける、あるいは話せる対象でなければ…殺して殺して殺し尽くす。ケイの矛盾した精神に火がつく。戦いを前に高揚する。蹂躙は乙だが、強敵がいれば尚良いと高ぶらせた闘争心のままにケイは命じた。即ち突撃である。



 遥か後方よりグラッシーの支援射撃が敵の小指揮官を穿つ。それとともに突貫するのは一行の誇る盾、タルタルである。ゴブリンやコボルトといった低レベルが雑兵を担っているのか、石で出来た斧や棍棒を振りかざして殺到してくるが、そんなものはタルタルには通りはしない。

 味方のゴーレムが巨腕を振り下ろし、ゴブリンファイターを赤い染みに変えるのを横目にケイもまた剣を振るう。


「〈ソニックスラッシュ〉!」


 横薙ぎに払われた衝撃波の一閃が5体のコボルトの首を纏めて切り落とす。敵に動揺が見えたところで両手斧と槌で武装したドワーフ達が攻めかける。

 戦闘への参加を希望したドワーフは老人が多い。ここが死に場所と見定めた老戦士たちの突撃はケイもかくやという勢いでの特攻だ。むき出しの腕に傷ができるのも気にはしないとばかりにひたすらに復讐の一撃を繰り返し見舞い続ける。

 かがり火が倒れ、かつての戦火が再び首都を覆う。

 だが、これは前座に過ぎない。既に占領した都市に配備されているのが雑兵だけなどと素人のケイにすら思えない。

 コボルトの腹からこぼれ落ちた臓物を踏みしめながら、ケイは老ドワーフと背中合わせになった。タルタルと親しくしていた人物だ。


「そろそろ来るぞ。若いの。行けるか?」

「全部切り倒せば良いだけでしょう?敵のエリートさん達は随分と重役出勤ですね」

「その意気だ若いの。そうだ、こいつらはこんなものじゃあない!だが貴様らといると死にそうな気がせんわい!」


 噂をすれば影。

 不甲斐ない雑兵を押しのけながら物々しい一団が奥から現れた。

 笑ってしまうほど棘棘した甲冑は一様に黒。身長は2.5メートルといったところで黒の大剣を構えている。その姿はケイにも見覚えがあるが、名前が出てこない。

 駆け寄ってきたタルタルがそっと教えてくれる。


「【ダシニアン・エリートナイト】ですね…レベルは確か60代。どうしますか団長?」

「そのレベル帯なら悪いですが主役は我々に譲ってもらいますよ。ご老人?」

「ふん!人を年寄り扱いしおって!貴様らが失敗したら儂らが尻を拭ってやるわい!」


 カイワレとグラッシーが全体の支援に回っている以上、あの一団の相手はケイとタルタルだ。かつてならばレベル差を考えても数の力で押されるかもしれないが…。

 ここは既に現実の世界。ならば自分が遅れを取るなど微塵も思わぬ。全て躱し、全て叩き切るのみとケイは獰猛に笑う。

 ここは自分のいるべき世界ではない。ならばここは死に場所ではないと、タルタルは更なる無表情の仮面を被る。

 二人の異世界出身者は共に地を駆けた。


 なるほどこれは悪くない。

 下手に飛び上がろうものなら槍衾ならぬ剣衾が迎え撃つ。ならばと【デュエルスパタ】を手にケイはすり足じみた動きで踊った。神秘等級の剣は甲冑を易易と切り裂き、エリートナイトの腕を飛ばす。断面から血管が見えたのも一瞬のこと、緑の体液が迸る。

 エリートの肩書は伊達ではないのか、それでも魔騎士は諦めない。残った腕で掴みかかろうとした瞬間にタルタルのメイスが顔面にめり込み、頭部を緑の果実に変えた。


「…〈ヘビーブロウ〉」

「ははっ!どうしましたか騎士さん達!折角の騎士同士!もっと勢い良く行きましょう!」


 話が通じるのかは分からないがケイは声をかける。死闘なのだから会話があればより一層の彩りが加わるだろうとどこまでも享楽的に。

 振るわれる大剣をわざと(・・・)ぎりぎりで回避するケイにエリートナイトは思うところがあったのか眼窩を赤く光らせた。そしてケイの会話に応じた。短い言葉で。


「ヌウゥゥ…《アサルトスラッシュ》」


 敵の気配が高まる。それまでとは雲泥の差の速度で大剣を突き出し飛び込んできた敵の一撃がケイの腕に僅かに赤い線を引く。躱しきれなかったのだ。


「《スライスダウン》」

「《バーンハック》」


 地獄の亡者の呻きに似た声で紡がれるのは聞き覚えのある言葉。【フェンサー】と【騎士】の適性で習得できるスキルの数々。

 なぎ払いを獣のように姿勢を低くして躱したケイに炎の一撃が見舞われるが、それはタルタルの大盾で受け止められた。いかな爆炎の一撃であろうとも彼の盾が溶けることはない。


「なるほど…ナイトというだけあって、我々と同じように使えるのですね」

「ええ、ええ!面白くなってきました!残りは…10体程ですか。悩ましいですね!」


 長続きしてほしいが、目的のためには短く済んだ方が良い。その相反する欲求にケイは身悶えしつつ剣を振るう。それすら刺激に感じる自分は元の世界に帰る資格などもはやあるまい。真っ当な生活が送れる気などしない。

 タルタルが戦闘を作業と割り切るのは恐らく正しい。暴で事態をすすめることを覚えてしまっては地球上の社会に適応できなくなってしまう。

 仲間の慧眼を内心で褒め称えつつもケイは進んで堕ちていく。これほどまでに刺激的なのだ。抗えるほど高潔には出来ていない自分を受け入れながら敵のスキルを躱し、首を飛ばす。


 魔軍のウガレト首都駐屯部隊の悲惨な末路を幾つかの目が見ていたことにケイは最後まで気付かなかった。


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