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アライアンス!  作者: 松脂松明
第2章
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櫓へ向けて

 平原を四足歩行の生物が闊歩している。犬ほどの大きさだが全体的に虫のような質感と顔を持っている。カマドウマを無理矢理巨大化させたような印象だった。【モスキートハウンド】というエネミーであり、レベルは60代。細かいところまでは覚えていない。


「改めて見ると気色悪いな…タルタルさん達、よく平気でしたね」

「10匹ぐらい倒したら慣れますよ。しかし、我々ならともかく一般人を通過させるとなるとやはり無理がありそうですね」


 この世界の法則というわけではないが、兵士や腕自慢の農民などでもレベルにすれば20に届かない。ステータス画面が見られないのでどこまでも体感ではあったが、おおよそ合っているはずだ。となればモスキートハウンド一体に蹴散らされかねない。


「団長、グラッシーさんとカイワレさんは?」

「エネミーと出くわさないルートを調べてみるって言ってましたね。身軽ですからすぐ戻るでしょう」

「そんな都合のいい道…ありそうですね。この世界なら」


 フィールドを移動する際、敵に出くわさないようにするルートなどは結構あったものだ。主にクエストを達成した後戦闘をするのが面倒な時にしていた。突っ切ったほうが速かったりすることもままあった。

 避難を希望する者がどれほどいるのかは分からないがゴーレムの稼働を待つことになるだろう。


「とりあえず顔だけでも拝みに行きますか。4人なら行けそうな集落とかあったりしますか?」

「遠目に見ただけなのでなんとも。櫓みたいなのが突き出してる森があったので、そこに行ってみますか」


 森…となるとエルフか。ファンタジーにおけるセオリーならドワーフとは仲があまりよろしくなかったりもするのでグラッシーを前面に押し出した方がいいだろう。こういう時は種族構成がバラバラなことが頼もしい。

 遠くにグラッシーとカイワレが見えた。さて、行軍を再開するとしよう…。



「爺。コレはなんだ」

「ギシッ?」

「はぁ…シーカ卿が代理に寄越した護衛ですな」


 胡散臭気な声にヴェネリオが手紙を読みつつ答える。二人の前にいるのは小さな騎士。兜の下には顔ではなく宝石のような物体が見えている。針金君・改であった。

 光都の人々にでも気を使ったのか、鎧を着込まされている。しかし元が棒人間状であるために音がさらに耳障りになっていた。


「手紙によりますとシーカ卿よりも遥かに強いとか」

「流石に信じられんぞ、態度は気にせんと言ったが勝手に遠征にまで出おって全く…。よし!爺。こやつと戦ってみよ。化けの皮を剥いでくれるわ」


 老いたりとは言えヴェネリオは元チャンピオン。その武威の程は一般兵はおろか、近衛騎士団ですら遠く及ばない。奇矯な代理に負けることなどあり得ない。


「では…これも君命。覚悟めされよ」


 律儀に声をかけた後、ヴェネリオが刃を抜き放ち切りかかった。当然、殺す…破壊する気まではなく少しばかり痛めつけるつもりだ。


「むぉっ!?」


 声を残してヴェネリオが消えた。壁には穴が開いていた。

 針金君には攻撃をされた場合、反撃の許可が与えられている。武の心得が無いクラリーナには見えな無い攻撃ではあったが、部屋の状況からヴェネリオが敗れたらしいと察しはついた。


「う、うむ…そなた茶でも飲むか?妾が手ずから淹れてやろう…うむ」

「ギシシ?」


 クラリーナは下手に出ることにしたのだった。おのれこうなったのもあの男のせいだと考えながら。



 遠い地にいるケイはくしゃみをした。この肉体にも風邪などあるのだろうか?そう考えながら馬を走らす。召喚された馬は相変わらず生気の無い目で危険なエネミーの彷徨するエリアにも怯むことはない。というよりは恐らく何も考えていないのだろう。

 エネミーは一定範囲内に入らなければあちら側から仕掛けてくることはまず無いものだ。それがかつての常識であったが、今の常識では腹を空かせている場合は別となる。当然他の状況も考えられるが空腹というのは一番分かりやすい。なにせ食わなければ死んでしまうのだ。野生は危機をできるだけ避けようとするのが自然の摂理というものでも、獣や魔物も賭けに出ることはあるようだった。

 実際に途中で何度か戦闘に入ることがあった。森に近づくにつれて【モスキートハウンド】だけでなく【フォレストアリゲーター】なども多く見られた。

 ここでケイはやや自身の戦闘技術を向上させる必要に迫られた。タルタルやグラッシーは幾度か遠征に出ておりいわゆる獣型を相手にする経験を積んでいたがケイはそうではない。人型を相手にするならばケイの方が上手ではあったが、得手不得手を言えるほど人数に余裕があるわけでもない。直立している相手と地を這う相手に有効な戦闘方法が同じであるはずもない。

 幸いにしてケイは戦闘に対する忌避感が薄い。というよりは全く無い類の“ネジがぶっ飛んでいる”人間であったため一定の水準にまでは早く到達できた。そこから先は経験と連携がものを言うため一朝一夕とはいかない。

 達さねばならない道程からしてみればほんの僅かの距離すら苦心することが多い。だがケイにはそれが楽しかった。戦闘を好むものとして血しぶきを浴びるのも喜悦であるし、仲間との旅の細々とした作業も面白い。

 かつてこの世界に来た時はベッドを求めていたはずが、今はテントを張り寝袋に収まるのが新鮮とは人間というものは全く勝手なものである。



 平原を抜け、小さい森を抜ける。また平原に入り、しばらくすれば目的の森が見えてくる。目を凝らしてみれば確かに木造の屋根が突き出して見え、櫓だと分かった。


「しかし目下占領中のはずなのにこうも堂々と見えてて良いものなんでしょうかね?」

「警戒のための物見台のはずが警戒される要素にしか見えませんね。余程腕に自信があるのか、単純に隠す必要がないとか」


 迷彩を施そうという努力が見られない櫓に向けて馬を走らす。ゾーンをまたいだことになるのか、先程までのような野生動物のテリトリーめいた雰囲気は消えていく。もっともいつぞやのダイアウルフのように移動してくる可能性を考えれば完全に安心はできない。ケイ達は既に安らぎの中に警戒心を潜ませることに慣れていた。


「前来たときもそうだったっすけど、何か妙っすよねぇ」


 グラッシーの発言にその時、同道していた二人も頷く。ケイのみが話が見えない。気の回るカイワレがさり気なく説明してくれる。


「占領中、ってわりには魔軍の人達を見ないんだよね。チュートリアルとかで見たけど人間っぽい形の人達だから目立つはずなのにね」


 ああ、とケイは頷いた。“剛魔将ギスヴィン”、“堕落のルムヒルト”、“魔科学者ジークシス”…名前を忘れたがあと一人。魔将の面々を思い出しても皆二足歩行のデザインだ。彼らの兵である存在についても同じことが言えるのだが、ここに来るまでに出会ったのは獣型のみ。ウガレトが落ちた、という話を元にした行動なのだが…。


「ふむ?辺境にまでは手が回っていないとか?首都あたりを押さえるのに手一杯ということはありそうなものですがね」

「もしくは…単純に興味が無いとかっすかねぇ」


 推測で彩られた会話をしていたケイ達は皆気付いた。そもそも魔軍の目的は何なのか?それすら分かっていない。ゲーム時代の設定ならば朧気ながら覚えている。彼らが生きていくには瘴気が必要であり、そのために各地を穢して周っているだとか、善の種族を見下す魔軍の主の意向だとかそんなお定まりの話だ。

 この世界は魔軍の主が倒されてから10年後ということになっている。魔軍の主が前と同じかどうかさえ不明のまま。知らないということは不気味なものだ。人の頭を悩ませ、勝手な想像を引き起こす。


「…まぁ会えば分かるでしょうから、どんどん進んでしまいましょうか」

「相変わらずっすね団長は。行き当たりばったりがうちのいいとことはいえ、ちょっとは貴族とか騎士らしくなれないっすかね…」


 トワゾス騎士団にそんな悩みは似合わない。どこまでも自分達のためにだけ戦う。かといって無法者というのも性に合わない。気の向くままにその場の空気に合わせて騎士っぽくである。かつては芯が無いことに悩んだケイだったが、今はそれが良いと思っている。



 会話に興じていると目的地に着いた。下から見た件の櫓は、人が作るものとは異なり大木の途中から生えるようにして造られている。森とともに生きるエルフらしい様式ではあったが、梯子も階段も無いと不便では無かろうかとケイが疑問に思った瞬間…矢が飛来した。


「そこで止まれ!貴様ら、何者だ!?」

「こういうとき普通は足元に撃ったりして警告するものじゃ…」


 ケイは顔面に向かって飛んできた矢を掴み取っていた。超人で無ければ間違いなくそのまま死んでいた。櫓にいたのはエルフとしか形容しようが無い美形の男。金の髪は長く腰まで届きそうだ。エルフというのは案外、好戦的なのだろうか?だとすれば気が合いそうだが、さてどうするかとケイは首を傾げた。



 




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