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アライアンス!  作者: 松脂松明
第1章
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新しい仲間とアンデッド退治④

 矢継ぎ早に放たれる火が暗い室内を照らす。火の矢はわずかに存在した装飾品に命中し燃え上がった。

「明かりがいらなくて助かりますねっと!」

 曲芸じみて空中で身体を回転させて着地したケイは軽口を叩いた。こちらの明かりは魔法のカンテラのみであり流石に暗所での戦闘は避けたかった…というのは本当のことだったが。

「フハハハ!我ガ魔法ノ前ニハ猿ノヨウニ逃ゲ回ルノガ精一杯ト見エル!今ナラ苦痛ナク殺シテヤランコトモナイゾ?」

 黒いモヤは高らかに笑い声を上げる。かつて人であった頃自分を追い立てたものたちと同類が逃げ回るのはさぞ爽快だろう。こちらは別に追い込まれているわけでも無いのだが。

「いいっすねぇあのセリフ!一度言ってみたいっすね」

「魔法使えないじゃないですかグラッシーさん…しかし言うだけのことはあってMPが枯渇する様子はありませんね」

 タルタルの言う通りだった。現実化したこの世界ならあるいはエネミーも息切れするのかもしれない…と期待したのだが〈ファイアーアロー〉と思しき攻撃は止むことが無かった。コレは確かに調子に乗るだけのことはある変化だろう。


「では実験その2と行きますか…!」

 マジッグバッグからスケルトンの使っていた剣を取り出す。火の矢を回避して飛び上がると同時にそれをケイは投げ放った。

 心得が無いからか投げるように出来ていないからか。漫画のように刃先を向けたままは飛ばなかったが、回転する剣はレイスに命中し…すり抜けた。

「フハッ!霊体ト化シタ我ニ剣ナド無力ヨ…!」

「ではアルレットは〈パワーショット〉を。カイワレは〈ライトアロー〉で攻撃」

 避けきれない可能性がある二人はタルタルの大盾の後ろにいたが、指示を受け身を乗り出す。

「〈パワーショット〉」

「ひぇ!〈ライトアロー〉!」

 2種の光弾がレイスに向かう。調子に乗りすぎたため棒立ちだったレイスはそれをマトモに受けてしまった。

「ヌグゥ!猪口才ナ…!」

 2回よろめいたレイスはわずかに苛立ちを見せた。魔法は最初から効果があると踏んでいたが、アルレットの矢も貫通したにも関わらず衝撃を与えていた。

「ふぅんスキル…というか“力”を纏わせた攻撃は単純な物理攻撃じゃなくなって霊体にも有効…ということですかね団長?」

「アルレットが使っている弓矢も一般の物。そう考えるのが妥当でしょうね」

 怒りをぶつけるためかアルレットとカイワレに火の矢が集中する。瞬間閃くものがあり剣とその先に意識を集中する。

「〈ソニックスラッシュ〉!」

 ケイのオリジナルスキル…〈ソニックブレード〉を空中に展開するその技は飛んできた火の矢をかき消した。

「同様の方法で魔法も切り払うことができるっと。いや思わぬ収穫ですね。ありがとうレイスさん…ではそろそろ真面目にやりましょうか」


 自分は敵に回してはいけない連中を相手どっているのではないか。レイスは敵である“星界人”達が自分より強者であると認めざるを得なかった。

 自分より遥か格下の者も二人混ざっているがドワーフの盾に阻まれて殺すことができない。いや殺したとしても状況は改善されない。鎧を着た人間とエルフにドワーフの3人は例え一人でもレイスを殺せるだろう。

 つまりはこの部屋に踏み込まれた時点で命運は尽きていたのだ。仮に奴らが撤退したとしても、知られてしまった以上この洞窟での実験は不可能となる。

「イヤ…諦メルモノカ…!」

 そうだ。この洞窟を捨て新たな地で実験を再開すればいい。王国を征服する野望はまだ潰えていないのだ。

「眠レ…!〈スリープフォグ〉!」

 〈スリープフォグ〉は霞に包まれた物を眠りに誘う魔法だ。短時間だが逃げる時間が稼げればいいのだ――奴らより速く動く手段はあとで考えるとして――。

 ドワーフやエルフは魔法に対しての耐性が高い可能性がある。狙うは人間の男。口ぶりからしても一行の指揮官だと思われるため、上手く行けば大きな隙となる…はずだった。

「馬鹿ナ!」

 人間の男は霞が現れたその瞬間に飛び退ってそこから逃れたのだ。

「ははははは!凄い!本当に避けられましたよ!」

 高らかに笑いながら人間の男は風の刃を放ってくる。奴らが攻撃を仕掛けてくる度に、この体を得てから忘れてしまった痛みが湧き上がってくる。

「クソクソクソクソクソ!」

 レイスとなって得た無尽蔵ともいえる魔力を使い尽くさんとばかりに〈ファイアーアロー〉を放ち続けるが、当たらない。焦りと痛みで思考が乱れる。

 自らの放った炎でレイスが作り上げた牙城が燃え尽きていく。そう牙城だ。王国を征服するための。

 いつの間に後ろに回り込んだのか、エルフの娘が金髪を棚引かせながら矢を放ってくる。金に輝く髪は何かを思い起こさせる。それは何だったか。

 火の矢を放ち続けるが成果が上がらず、単純作業のように思考が飛んでいく。なぜ自分は王国を征服しようと思ったのだったか。王国を支配して何がしたかったのか。

 繰り返される攻撃の応酬は徐々に単調なリズムとなり、レイスは一方的にかつ淡々と劣勢に追い込まれていく。

 幾度目になるか分からない強烈な一撃を受けた時、何かが途切れた感触がした。消える視界に最後に映った金の髪。それを見た時どこかで見た女の顔が頭に浮かび、レイスは永遠にその顔の持ち主を思い出すことができなくなった。


「何か最後らへん、攻撃が温かったっすねこのレイス」

 それはケイも感じていた。途中から工夫というものが無くなり、ただひたすらに〈ファイアーアロー〉を放つだけになっていた。それも棒立ちになってだ。

「グラッシーさんの方見てたように思いましたけどね」

 盾として正面に陣取っていたタルタルが言うと真実味がある。ケイには顔の輪郭もハッキリしないモヤのような身体だったため、ハッキリとしたことは分からない。もし復活することがあれば分かる日も来るのだろうか。

「まぁどうでもいいでしょう。とりあえず依頼達成ということで。カイワレさんとアルレットは初のダンジョン攻略おめでとうございます!」

 アルレットは照れたように頭を掻いている。一方の依頼主でもあるカイワレはレイスが着ていたローブのようなボロ布を摘んでいる。

「この服ってボスが着てたんだし良い物なのかな。…お?」

 硬貨を落としたような金属音が響く。音の原因はカイワレの足元に落ちたイヤリングだった。

「…耳飾り?アンデッドもお洒落するのかな?」

 イヤリングには宝石がはめ込まれており高価なアイテムに見える。金属部分も恐らくは銀製だ。なぜ肉体を失ったレイスがこんなものを持っていたのか。

「まぁ貰っておいたらどうです?そのボロ布も」

「えぇ…こっちもぉ?」

 このダンジョンの探索はカイワレの発案にして依頼であるため、ルート権はカイワレが持っていると考えた方が自然だ。

 レイスが所持していたことを考えると魔法を強化するアイテムの可能性があるが、戦士職であるケイ達にはその性能は活かせない。レイスの強さからいってもケイ達にとって喉から手が出るほど欲しいアイテムではないだろう。カイワレに譲っても問題は無かった。

「それはそうと早く出ませんか団長。火が回ってきてますよ」

 レイスが放った火の矢はケイにはそう感じられなくともかなり強力だったようだ。石造りの部屋にも関わらずまだ燃えていた。

「そうですね…では撤収!カイワレさんには後でちゃんと情報を教えてもらいますよ」

「はいはいっと!一応急いで出ようか」

 ここに王国転覆を図ったレイスの企みは彼の実験の成果とともに燃え尽きることとなったのだった。


「…で結局カイワレさんも付いてくるのですか」

「良いじゃん。堅いこといいっこなしで。あたしもトワゾス騎士団の見習いってことでよろしく!」

 “死霊術師の洞窟”を攻略して数日、王都の情報も手に入れて存分に休んだ後ケイ達は出発しようとしてた。

 カイワレがもたらした情報は驚くべきもので、結局ケイ達は念のため王都行きを取りやめていた。代わりに目指すのはアナーバ同盟。タルブ砦でのラシアランの勧めに従ったことになる。

 レイスの格好を思い出してアヴブルー村で造ってもらったフード付きのマントに身を包んだ一行が出発しようとしたところ、カイワレがさり気なく付いてきていたのだ。

「ヒーラーも魔法使いも必要でしたし、僕は良いと思いますよ」

「悪い子では無さそうっすから賛成っす」

「…仲間が増えたら楽しいと思う」

仲間達が歓迎するとあっては無碍にはできない。そもそもケイとしても断り無く付いてきたため聞いただけで別に反対というわけでは無かったのだ。

「分かりました。加入を認めますよ。…本当に前のギルドは脱退してきたんでしょうね?」

 じろりと子供と変わらぬ背丈の少女を睨む。悪い子では無いというグラッシーの言葉にはケイも同意だが、嘘をつかない性格かどうかまでは分からない。

「うん。寂れてたけど事務所にちゃんと書類を出したよー」

 この世界ではギルドの加入脱退は書類で処理されている、という新しい事実に驚きつつも頷く。流石にギルド間の揉め事に発展するのは避けたかった。

「では方針には従って貰いますよ。では改めて歓迎しますよカイワレ」

「よろしくっすカイワレちゃん…可愛い子が増えて嬉しいっすねぇ」

「…同じ見習い同士頑張ろう」

「よろしくお願いしますねカイワレさん」

「あははー照れるなーこういうの!」

 こうして騎士団に新しい仲間が加わる。この先朗らかなカイワレは一行に明るさを常に提供するのだった。



 プロヴラン王ジェロイスは歯ぎしりしそうになるのを懸命に堪えていた。玉座に座っている以上不必要に感情を表すのは避けなければならなかった。

 かつてこの謁見の間では左右に並んだ列の違いは名目上の所属の違いであり、王に忠義を尽くしている点においては変わりがなかった。だが今は違う。

 原因は目の前に立つ青年と後ろに跪く女にあった。青年は未だ成人したばかりで金髪碧眼の容姿は整っている。女は黒髪の蠱惑的な美女――見かけだけではあったが――である。

 継承権を持った王族がジェイロス以外死に絶えたことでジェイロスは王となった。さらに10年前の魔軍との戦いで功績を上げていたため民衆の支持もあり、歴代の王で最大の権力を持つこととなった。しかし眼前の青年によって貴族の派閥は力を取り戻し、それが揺らいでいる。青年が行動を開始した理由こそが横の女にあることを王は既に知っていた。

 結果として権力争いと無縁であった王の派閥は後手に回り、対抗馬とされるだけの勢力を貴族派閥に持たせることとなった。

 今日の青年…アルジェフ・ド・バルリエ伯爵の申し出をはねつけることができない有様だ。


 プロヴラン王国に混乱が訪れようとしていた。

 


 


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