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アライアンス!  作者: 松脂松明
第1章
18/54

新しい仲間とアンデッド退治①

 タルブ砦に別れを告げて数日。一行はまだアブヴルー村にたどり着けていなかった。


「ラシアラン卿は一本道と言っていましたが…」


 確かに一本道には違いない。道はこれしか無いのだから。元の世界と違い舗装などされておらず、草があまり生えていないだけだ。おまけに曲がりくねっていたりところどころ途切れていたりするのだ。アルレットがいなければ道に迷っていただろう。



「それにしてもアブヴルー村っすか…。あれっすよね?ゾンビの出る」

「よく覚えていますね…」


 アルレットを除いた三人はしばしゲーム時代に思いを馳せる。アブヴルー村は比較的序盤に訪れる村で、死霊術師によって引き起こされたゾンビ大量発生に悩まされていた村だ。訪れたプレイヤーはその退治や浄化、遺品集めに関わる…というのがアブヴルー村におけるクエストの流れとなっていた。


「ゾンビですか…僕は戦いたくないですね」


 タルタルの呟きはもっともだ。ゲーム時代であれば単にグラフィックが気持ち悪いだけのエネミーだが、現実化したこの世界では話が違う。臭いもあれば感触もあるだろう。


「攻撃したら何か飛び散りそうっすね…出てきたら戦闘大好き団長に任せるっす」

「いや私も別に戦いたくは無いですが…」


 戦闘狂扱いが定着してきたのは心外だ。大体ゾンビなんて戦っても全く楽しく無さそうな相手である。

ゾンビは一般的なイメージ通り動く死体だ。腐っているし動きは鈍い。種類が多く、こちらの移動や攻撃を阻害する技を多用するのが特徴と言える。

 口から何かを飛び散らして極短時間移動を阻害する技だけは絶対に食らいたくない。絶対にだ。



「ただ…これまでの情報をまとめると我々がいた時期より10年ほど経過してるようですから。死霊術師も倒した後になるのでゾンビはいない可能性はありますね。あって欲しいですね」


 10年経過している…ということはそれまでの知識が活かせないということだが、同時に今までは無かった要素が加わっているということでもある。アブヴルー村がゾンビのいない平和な村に戻っている可能性だってあるわけだ。

 ゾンビがいるかいないかも大事だが、ゲーム時代に接触のあったキャラクターと再会した時一体どういう反応をするのか。アブヴルー村は今後の重要な試金石となるだろう。

 なるべくならタルブ砦のように良い出会いがあって欲しいとケイは強く願う。



「おっ!見えてきたっすよ!…家の配置とかはそのままのようっす」


 すっかり偵察が板についてきたグラッシーが声をあげた。木の上の方に平然と直立しており、エルフの面目躍如といったところだ。


「とするともうアブヴルー村のゾーンに入ってるわけですね。その割に暗くないですね」


 タルタルの言うようにかつてのアブヴルー村一帯は紫の瘴気が立ち込め、晴れでもどんよりとした雰囲気だった。しかし現在は通ってきた時と同じく青空が広がっていた。


「願いが通じましたかね…ここまでエネミーとは一度も遭遇しませんでしたし、平和そのものです」

「…時々兵隊さんたちが通るわけだからね」


 言われてみればそのとおりだ。この世界の軍隊はエネミー退治なども定期的に行っているのかもしれない。


「さて…何か良い情報が手に入ればいいのですが」

「宿屋があればいいっすけどねぇ」


 一行は期待に胸を膨らませながら村へと進んでいく。その歩みは心なしか速くなっていた。



 アブヴルー村の入口にはくたびれた兜を被り、少し錆びた槍を持った門番らしき男が立っていた。一行を胡散臭げに眺めているが戦意は見られない。通行が容認されている…というわけではなく、単にやる気が無いようだ。


「ほい、止まってくださいな旦那さん方。一体こんな辺鄙な村になんのご用ですかい?」

「我々は星界人のギルド“トワゾス騎士団”。旅の最中でしてね…補給や休息のために立ち寄ったんですよ。この通りタルブ砦のラシアラン卿の紹介状もあります」


 ラシアラン卿は中々細かい気配りのできる人らしく渡された紹介状はかなりの数だった。依頼を受けた時に“各地への紹介状”を要求したためかもしれないが。


「へぇ!これは確かにジュリュカ騎士団のご紋入りだぁね。封蝋も押してあらぁ…貴族さんの字なんか俺じゃあ読めねぇでしょうし村長さんとこまでご案内いたしますわ」

「中々味のある話し方の門番さんっすねぇ…」


 ケイ達は門番の後について歩き出す。微妙に門番の足取りが遅いため少し腹立たしいが、偉い人の紹介状を渡されてこの態度は中々の大物といえるのかもしれない。



「この村には鍛冶屋とかありますか?僕らの武具を修理したいんですが」

「あるにはあるけどよぉ。村の衆が使うような鎌とか鍬とかしか相手にしてませんからねぇ。騎士様の使うようなもん渡したら目ぇ回しちまいますよ」


 どうもちゃんとした騎士だと思われているようだが、間違っているわけでもないしそのままにしておく。


(しかし…その辺りの店では修理できないのか。名のある工房とかそういうのを探さないといけないのか?)


 ケイ達の使う装備は中の上か上の下といったところだ。しかしそれはケイ達の認識であって、こちらの世界では修復も難しい神秘の武具となる可能性もあった。思い返せばブリエールもそんなことを言っていたのだ。

 下手をすれば現在装備しているタルブ砦の武具も下手な鍛冶屋では直せないのかもしれなかった。

(そうなると…下級の装備にも使いみちが出てくるかもしれないな…)

 質の低い鍛冶屋でも修理可能な武器を使う。敵から奪ったものを使用する。幸いケイ達にはマジッグバッグがあるのだから、複数持つことは苦にならないだろう。強敵相手に装備を変えたりする必要はあるが、それはゲーム時代でも同じことだった。


「あれが村長さんの家ですわ」


 ケイが何か思いつきそうになっていると、門番から声がかかった。



「おお…おお…これはこれは。よくぞ来られました星界人の方々。…む?儂の顔に何かついておりますかな」

「村長だ…」

「村長っすねぇ…」

「村長ですね」


 他の家々より少し大きめの家から出てきた老人。長くなった髭と眉毛。着ているのは緑のローブ。腰は曲がっており杖をついている。つまり、古典的なファンタジー作品に登場する“村長”そのものだった。


「いかにも儂が村長のランソールですが…」


 ファンタジーのお約束を目の当たりにして感心している一行を見て、村長が困惑していた。初対面の人に失礼が過ぎたかもしれないのでケイ達は頭を下げた。


「ああすいません…こちらの話でして。これがラシアラン卿の紹介状です」


 門番から返してもらった紹介状を渡す。

 村長は封蝋を慎重にナイフで開けて中を見る。手紙を読んでいくにつれて嬉しそうに目を細めて口を開いた。


「エモニエ家の若様が騎士団長様とは…儂も老けるはずですな。あの方のお父上にはお世話になったもの…お話は分かりました。村としてもできる限りのことはさせていただきます」


 どうもラシアラン卿の家名はエモニエというらしかった。そういえばジュリュカ騎士団の面々は誰も家名を名乗らなかったが、そういう習慣でもあるのだろうか?


「助かります。代価はお支払しますので」

「なんと…村の者も金が入るとなれば喜びます。この村には宿のような気の利いたものは無いので、狭いですが儂の家をお使い下さい」

(ひょっとしてタダで持って行かれると思われてたのかな…)


 妙にいそいそと動き出した村長に案内され、ケイ達は買い物に行くこととなった。



「あれ?片手槍と盾買ったんっすか団長」

「予備兼実験用にですね。盾はいざという時にも使えそうですし」


 門番が持っていたため作れるだろうと踏んではいたが、片手槍はナイフのような刃物を造ってもらってできるだけ頑丈な棒に固定しただけのもので盾はバックラー状の板に鉄鋲を打ち込んだ小型のものだ。門番が言っていたように大した腕の鍛冶屋ではないらしい。


「アルレットとグラッシーさんは服ですか」

「…古着を何着か」

「この村娘っぽい服はちょっと良いと思うんっすよねぇ。一周回って趣味的で」


 現代と比べたら一周どころではないのではないだろうか?思えば愛用の装備も制服のようなデザインだし、グラッシーも案外ファッションにはうるさいのかもしれない。


「確かにアルレットは似合いそうですね」

「…え?」

「そこで何でアタシを抜かすっすか」


 照れるアルレットが可愛らしい。猟師だったので容姿を褒められる機械があまり無かったのかもしれない。グラッシーはこの際無視である。


「にしても結構人気だったっすねぇアタシ達」


 ケイは頷く。支払いが銀貨で行われると聞いた村人達はこぞってケイ達を呼び込んだのだ。どさくさに紛れて職人以外も古着等を売っていたが。


「…でも、いくら何でも気合入りすぎだと思うの」



「そのことで村長さんからお話がありましたよ。おっと、ただいま戻りました団長」


 気がつくとタルタルが横に来ていた。ドワーフは背が低いため視界に入り難い。戦闘では長所になるかもしれなかった。


「おかえりなさいタルタルさん。タルタルさんは何を買ったのですか?」

「ロープとか麻袋とか。結構使う機会増えそうですから」

(なるほど、それは思いつかなかった。)


 そのことを少しばかりケイは恥ずかしく思った。ロープがあれば物や人を吊り下ろしたりできるだろう。マジッグバッグの中は種類ごとに管理されてるはずなので、物を一纏めにしておけばゲーム時代より多く入る可能性がある。


「しかしロープで崖降りたりとか…ワクワクしますね」

「いかにも冒険って感じですね。…それで先程の村長さんからの話ですが、どうもこの村の職人が客に飢えていることと関係してるようで。その原因を引き取って欲しいということでした」


 “クエスト”のような依頼ではなく、お願い事のようなものなのだろう。だからタルタルは先に話を聞いていたのだ。


「引き取る…ああ原因は人なのですか。商売敵の排除とか?」

「なんでそう発想が物騒なんっすか団長は。引き取るってことはその人が別に悪さしてるわけじゃないけど、持て余してるって感じっすかタルやん」


 結局同じことではないだろうか、とケイが考えているとタルタルが苦笑しながら答える。


「そんなところのようです。僕も実際に見たわけではないので、今から行こうと思ってたんですよ。この先の通りだそうです」


 タルタルが指差した先の通りから聞こえる声には活気があった。

 原因ということは件の人物はやはり商売をしているのだろう。そして外部の人間に依頼してくるとなると村人でなく余所者。余所者が商売を始めたら訪れる旅人などの客がそちらに流れたというわけか。

 そう考えて、ケイ達は通りの方へ歩を進める。


(問題は旅をしている我々に引き取りを依頼してきたということ。引き取ることが可能であると村長が考えたということはつまり、その余所者の素性は――)


「はーい!カイワレちゃんの掘り出し物売りだよー!近くの魔物から採れた素材や諸々の採集物!現品限り!」


 現実には存在しないような緑の髪をした子供ほどの背丈の女性。ズレた名前にどこかで聞いたような売り文句。

 どう考えてもケイ達と同じ“プレイヤー”であり“星界人”だった。

 

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