怪鳥-裏側で
「ふぅん…やられちゃったか。成功かな?失敗かな?」
女の声が響く。人が魔軍と呼んでいる勢力がかつて支配した地域。その地下に“ソレ”はいた。地下といっても洞窟のようなものではない。城の中か神殿を思わせるような造りだ。
「成功といえるでしょう。簡易転移門の起動には成功したのですから」
応えたのは男の声。顔が奇妙に捻くれており人型ではあるが身体の造りが明らかに人間種や亜人種とは異なっていた。彼は人が“魔族”と呼ぶ種族だった。彼ら自身がそう名乗っているわけでは無いが。
「そう?通った子は散々な目にあったけど…名前ぐらい付けてあげれば良かったかな?」
「確かに…今の時点で転移可能なのは“存在強度”にして35程が限界のよう。それでも戦果を上げられるように大型に設計したのですが…。距離にも問題がありますな。き奴らの都市まで送り込めれば…」
「それは単純に門の入り口を作る場所を近づけていけば良いと思うけどねぇ…それにあの子は相手が悪かったよ。現時点での適応度はかなり上だよ彼らは」
「星界人どもですか…忌々しい。しかしアレらの数は大幅に減っています。最早脅威とはなりえない」
女の声は終始楽しげで、男の魔族の声は苦々しく焦りが見える。
「そうかい?どの種族も侮れない。今回だって彼らだけじゃなく人間の兵隊さんたちが頑張ったから砦は残ったわけだし…それに簡易とは言え転移門だ。そうポンポンと作るわけにもいかないね…コストがかかりすぎるよ」
「あなたの力を持ってしても?」
訝しげに魔族は目を細める。この女にもできないことがあるなどと思えなかったのだ。この新しい拠点を彼女は一人で作り上げた。人間どもにほぼ壊滅させられた軍勢も再び作り出し、彼自身を初めとした魔軍の幹部を封印していた楔も取り除いたのも彼女だ。
「確かに僕の力は無尽蔵と言ってもいいだろうね。でもそれを一度に絞り出せるわけじゃない。そこは信じて欲しいな。僕が君たちをある程度まで支援したいと思ってるのは本当なんだ。じゃないと不公平ってものだからね」
何が不公平なのか。そのことを聞く気にはならない。
人は魔族を悪だと思っているようだが、そうとも限らない。魔族にとっては力が全て――腕力でも知力でも魅力でも構わないが――であり、単に今まで君臨していたモノが悪事を好んだだけだ。
今度の主がなにを望んでいようと従うのみだ。そして当面は魔族の力を強めよ、と言っている。
「勿論信じております。では次の策が出来次第またご助力願います…王よ」
恭しく頭を下げる。そうすることに躊躇はない。間違いなく彼女は自分よりも強いのだから。
「わかったよ次の王様。今度の演し物は何か?期待して待ってるよ」
無邪気な笑い声が地下に響いた。