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アライアンス!  作者: 松脂松明
第1章
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怪鳥③

 ようやく落ち着きを取り戻した3人の兵士たちと連れ立って歩き出す。タルブ砦まではまだ少し距離があり、彼らから砦について色々と聞ければいいと思い、一行は3人に不審に思われないよう注意をしながら話をする。


「するとあなた方は同郷の士というわけですか」

「そ、そうですね。そうなります。農民の次男、三男でして、家では邪魔者でしたので…働き口を求めて都に来たのですが中々見つからず…兵士の募集に乗ったらここに配属された…というわけです」


 ヤニクと名乗った若者が答える。農家の生まれだというが、礼儀正しく、落ち着きがある。この世界の農民の教育水準が不明だが、学校なども有るのかもしれない。

 彼の話を聞いている限り、上のタルブ砦に駐屯する騎士団は騎士のみで構成されているわけでもなく、募集した兵士や騎士の配下などが大半であるようだ。


「そうだ!俺達はここで成り上がって…村のやつらを見返してやる。功績をあげて、ジュリュカ騎士団の正式な騎士に叙勲されるんだ!」


 興奮で顔が赤くなった兵士が後ろから大声を出す。名前はメオンというようだ。顔のニキビがいかにも若者と言った感じで、話す言葉も勢いがあり、微笑ましくなる。チラチラとグラッシーを見ている限り、女性の前で見栄を張りたいのだろう。

 それは悪いことではないように思われて、功績を挙げる機会に恵まれれば案外本当に大成するかもしれないなとケイは考えた。


「へぇ立派な若者っすね。タルブ砦の騎士団といえば、昔華々しい勲しを上げた騎士団。実力主義というわけっすね」


 グラッシーの声を受けて、メオンが大きく胸を張る。挙動がいちいち大げさで分かりやすく子供っぽい。しかし不思議と憎めない感じがする青年だ。

 グラッシーの言葉で、アルレットの語った過去の戦が本当にあったということ。平民が騎士に成り上がることもあるということが分かる。


(ほとんどカマかけだが、こういった時にさらっと言えるのはグラッシーの強みだなぁ)


仲間の一面に改めて感心していると、今まで目立たなかった最後の一人が口を挟んだ。


「やめようよ二人とも…この方達は騎士なんだし、そんな風に話すのは駄目だよ。それに砦のことを外の人に話したなんて知られたら、兵長に叱られるよ…」

「お前は気にしすぎなんだよファブリー!この人達は俺たちを助けてくれたんだぜ!悪い人たちじゃねぇって!」

「でも…」

「まぁまぁ二人とも、確かに我々も無神経だったようですね。すいませんファブリー君。僕達、星界人はどうも身分や階級にこだわらないもので」


 タルタルの取りなしでファブリーも少し落ち着いたようだ。


(現代人の感覚でいえば、どんなに小さく見える情報も社外秘になってる場合があるということか…しかも事は軍事に関わるもの。外部に流されて喜ぶ指揮官はいないということだろう。しかし、べらべら喋ってくれたほうがこちらはありがたいが…まぁ彼らが叱責されたりするのは見たくないな)


 どうも自分は腹芸や陰謀には向いていないな、と思いつつケイは先程の事態に話を移すことにした。



「しかし、先程のようなハーピーはこのあたりでは良く見るのですか?確かに山間部を代表する魔物の種ですが」


 だとしたら、新兵3人だけで外に送り込む連中はどうかと思う。しかし、彼らは首を横に振った。


「ハーピーっていうんですか?あんな魔物を見たのは初めてですよ…まるで人のようで気味の悪い魔物ですね…」

「村には、獣とそんなに変わらないのしか、いなかったもんね…」


 ファブリーとヤニクの話にケイは眉をしかめた。ダイアウルフと同じように、他所から流れてきたエネミーということだろうか。確かに翼をもったハーピーであれば、長距離の移動は難しくないだろうし、想像しやすい。普通の鳥と同じように渡りの習性があるとも考えられる。


「もしかすると、功績を挙げる機会が来たのかもしれないな!」


 先程苦戦していたことなど、忘れたようなメオンの言葉に苦笑していると、砦が近付いてきていた。

 頑丈そうな石組みで作られた壁だが、ところどころ欠け落ちているところがあり、かつての戦を偲ばせる姿だ。突き出て見える塔のような部分が居住区なのか、あるいは監視台なのか頂上の部分に人が見える。全体的に頑丈そうだが、住むのには向いていない印象だ。

 ケイらは3人を先に行かせ、砦に入れるか通行できるかを聞いてもらうことにした。


 近づき過ぎると警戒されてしまうだろうが、離れすぎてもまた怪しいだろうということで砦の門が見えるぐらいの位置で待つ。


「んー?アルレットちゃん、どうしたっすか?」

「ああ、そういえば先程も会話に加わっていませんでしたね。調子でも悪いのですか?魚のフライ食べます?」

「それで治るのはタルタルさんだけですよ…」

「…いやそんなに大したことじゃないのだけど、トワゾス騎士団での私の立場ってどういうふうになるのかなって」


 なるほど、とケイは納得した。恐らく先程の3人の新兵を見て思うところがあったのだ。

 ヤニク達3人は騎士団の所属だが騎士ではなく、兵士だ。トワゾス騎士団に加入したアルレットがもし兵士という立場になるのであれば、仲間ではなく部下ということになってしまう。そのことを恐れたのだろう。


「アルレットちゃん…そんなにアタシたちのことを…!」

「グラッシーさん。少し気持ち悪いです。大体真剣に悩んでる人にそれはどうなんですか」


 仲間の視線は団長であるケイに集まることとなった。少しだけ考えて口を開く。


「そうですね…今更部下って感じではもう無いですし、騎士らしい装備を誂えるまでは見習いってことでどうです?他人がいる時は少しだけ敬語使うとかそれぐらいで」


 トワゾス騎士団はギルドであり本物の騎士団では無いのだが、やはりこの世界の人々にとっては騎士団というもののイメージがついて回るだろう。叙勲やら叙任があるわけでもないので、生まれや種族は気にする必要もない。

 とはいえ、人目が有るところで礼儀を弁えないのもまた不都合だ。


「まぁ、アルレットに言う必要はないですことですが、悪行や礼儀知らずな行動だけ謹むようにしてください。私も指示を出す時は偉そうにしますので」

「…ええと見習い?いずれ騎士になるってこと?私が?あ、でも、そんな装備買うようなお金は…」

「その辺は入会特典っすね。それにあくまでアタシら含めて、なんちゃって騎士ですし」

「僕らが倉庫に預けてある金と装備があれば、の話ですがね…」


 まぁ仲間のために一から資金や物資を調達するのも楽しいかもしれないな、と思いながらケイは仲間たちを見やる。アルレットは驚くほど馴染んでいる。特にグラッシーとは女性同士で仲が良いようだ。

厚意に身をすくませ、涙目になってるアルレットは3人にとっての妹分のようで微笑ましい。


(他にも来てるプレイヤーとかいたら性別とか苦労してそうだなぁ…)


 落ち着いたアルレット達と雑談しながら、再び砦の反応を待ち侘びる。随分と揉めているのであろうが、仲間たちと過ごす時間はこれからの不安を打ち消してくれていた。


 耳障りな音を立てながら、門がゆっくりと開く。そのことに気付いたのは、話していたグラッシーの耳がピンと跳ねたからだ。エルフの鋭い感覚は、ケイ達に何かが起こる前兆を常に知らせてくれるようで、グラッシーの耳が跳ねた時は皆辺りを見回すようになっていた。

 門が開ききるとフルプレートアーマーに身を包んだ初老の男を先頭に、幾人かの兵士が歩いてくる。


(とりあえず、捕まえられたりすることは無さそうだな)


 捕らえるつもりなら人数が少なすぎるし、武器も構えていない。胸壁の上に兵士らしき人々も集まってきているが、見物と言った様子だ。

 男はケイ達の近くまで来ると、手振りで兵士たちを待機させ、自分は5歩ほど前に出た。


「ジュリュカ騎士団の団長、ラシアランと申す。我が兵らを救っていただいたこと、感謝する」


 頭を下げないのは部下の手前だからだろうが、目には真情が込もっている。敵意は感じられないのに、その風格に気圧されそうになるが、こちらも仲間が見ている。よろけたりしないよう足に力を込めて返答しなければならなかった。


「トワゾス騎士団の団長、ケイです。彼らは団員のタルタル、グラッシー、アルレット。思いがけぬ出会いとなりましたが、コレを機に交誼を結べたら良いと思っております」

「全くですな。ふむ…星界人の方々だとか?一人違うように見受けられますが」

(見て分かるの!?身体のどこかに特徴があるとかか?)


 驚きはしたが、嘘をつくとバレた時が面倒だ。アルレットを見たことがある人間がいないとも限らない。いつも通り正直に対応することにする。


「ええ、この近隣で加入を希望してきた者で、今は見習いをさせております。もっとも国に仕えているあなた方からすれば、我々の騎士団のあり方はおかしく見えるでしょうが」

「ははは!それは言ってしまえば、あなた方の視点では、我々の騎士団のあり方の方が変だということですな。個人的には面倒が無くて羨ましいとさえ思えますよ。平民を称誉することにさえ、抵抗を示す者がおりますからな我々は」


 二人で笑い合うが、ケイは胃が痛かった。見た感じでは人がよさそうに見えるが、こちらを皮肉ってるのかも知れないのだから。



「さて、恩人を疑うのは心苦しいがこれも役目。差し支えなければ貴殿らの目的を伺いたい。この山を通過したいというのは分かりますが、砦に入りたいというのは一体いかなる意味で?」


 ここからが問題だ。どのように返答するか。

 いつも通り馬鹿正直に行くしか無いのだが、言い方というものがある。“この世界はゲームの世界だと思ってました”などと匂わせるような発言は避けなければならない。しかし星界人というのも、最初から異世界に住む人を指す言葉だ。それを境遇に落とし込んで形にする。


「どうお話ししたものか、正直迷っております。我々、星界人は現在ある種の危機に瀕しており、その原因を探るため、また当面の命をつなぐために、人里に立ち寄りながら首都を目指しているのです」

「プロヴランを?すると噂は本当だったのですか…」

(噂?ということは、他のプレイヤーもこちらに来ているのだろうか)


 会話の端々での発見も、即座に会話に盛り込まなければならない。プレゼンテーションのようで頭が痛くなってくる。


「どうやら、事情通である様子。砦の中に入りたいというのも、かつて、この地を旅した際の知識が使い物にならなくなっているためです。次の町への道、物資の補給、そしてこの世界の現状。知りたいことも、必要な物もまさに山ほど。出来る限りの対価も、お支払いいたします」


 一気に言い切った。元々饒舌な方ではないため、喉に違和感さえ感じる。

 

 ラシアランは、手を顔に当てて何かを考え込んでおり、沈黙が場を支配する。しかし、それも時間にして1分ほどのことだった。


「…分かりました。こちらも出来る限りのことをいたそう、砦へご案内する」

「よろしいのですか!?」


 思わず大声で聞き返してしまった。しまった、と思っているとラシアランは笑って言った。


「なーに、勘ですよ。あなたは嘘を言っていないと感じた、そして悪人ではないとも感じた。それだけのことです。最後にモノを言うのは勘だというのが、私が戦場で得たことなのですよ」


 その笑いは先程までのものとは少し違い、豪放で気のいい印象を与えてきた。


「感謝します。ラシアラン卿」


 ケイが頭を下げると、他の3人も続いて頭を下げた。


「そう簡単に頭を下げてはいけませんな。しかし、貴殿は何となく放っておけない方だ。さ、行きましょうぞ」


 苦笑したラシアランが手を振ると、砦の兵たちが動き出す。連れ立って歩きだすと、ラシアランがケイに囁いた。



「それに、気になるのですよ。貴殿らが倒したハーピーの存在が。厄介事が起こる時には必ず前触れがあるものですからな」

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