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失恋ショックによる不登校からようやく立ち直れた話

 最近ワンナウツを読んで、やっぱり自分は「ひたすら邪道を重ねた末の王道」がとても好きなんだなあと認識した。

「ああ、怖い……。怖すぎる……。無理。まぢ無理……」


 次の朝、僕は制服姿で玄関に立ち、ドアノブを掴むのに躊躇していた。

 すると僕の後ろにいるルークがあきれた様子で溜息をつく。


「ったく。ほんとにヘタレだよなあ。お前は」

「いや、やっぱり、振られてから数日学校行ってなかったからね……。やっぱ怖いよ」

「心配すんな。俺もついて行ってやるから」


 ああ、マジでルークも着いてくる気なんだ。別に君がいたところで安心できたりはしないんだけど。


「まあそもそも、俺がお前の傍にいないと、怪人が現れた時に急に変身させられないからな」


 え。ひょっとして、僕が学校にいる間にも怪人が現れたら、僕をその戦いに駆り出す気なの?


「あたりめーだろ。お前それでも自分が魔法少女まじかる☆ルークだって自覚あんのか」


 ないって何度言えば分るんだろう。あと僕はその呼び方決して認めないからね。


「それに、いつでも変身できるっていうのは自信にもなると思うぞ。いじめられたって、こんなやつら自分が魔法少女になりさえすればいつでもぶっ飛ばせる、って思えば少しは溜飲が下がるだろ。場合によっちゃ実際に協力してやってもいいぜ」


 さすがにそれはちょっと。格闘技やってる人が一般人をフルボッコにするようなもんでしょ。


 それに、僕がルークとしてあんな恰好で戦ってることばれたら、今度こそほんとに僕の学校生活終わるどころの騒ぎじゃない。絶対バカなクラスメイトが、一人くらいはツイッターか何かで大拡散して僕の人生終了しちゃうよ。


 昨日、ナイトの言葉を聞いているときにも同じこと思ったけど、こういう正義のヒーローとして戦う時に一番ネックになるのって、実際のところはネットを利用した社会的な死だよね。

 それからもすったもんだあった末に、僕はようやく家から出ることに成功する。久しぶりの朝の涼しい空気が肺の中に入ってきて気持ちがいい。休んでいた間はずっと遅起きだったからね。




 また学校の校門前で足がすくんでしまったりしたけど、なんとか僕は教室にまで足を踏み入れる。


 なるべく静かに、できれば僕が登校してきたことなど、しばらく誰も気づかないような展開をのぞんでいたんだけど、生憎そうは問屋がおろさなかった。


「あ、優くん!」


 不登校になっている間、ずっと毎日僕の家に押しかけてきていたクラス委員長、天野心春が僕の姿を見るやいなや、ぱっと輝くような満面の笑みを浮かべて、こちらに駆け寄ってきた。


「ああ、心春か」

「もう。なんなの。そのどうでもよさそうな顔は」


 心春は不機嫌そうな様子で頬を膨らませて言う。だってしょうがないじゃん。どうだっていいんだもん、実際。


「ほら。私の言ったとおりでしょ? みんな優くんのことを変な目で見たりしてないじゃん」


 うん。確かにそうではあるんだけど、それはただ単に僕のことに興味ないだけだと思うな。


 まあ、僕としてはそれで満足だけどね。


 僕に興味を持ってもらう必要なんかどこにもない。

 大勢からの感心なんていらない。

 隅っこで目立たずにぼそっと生きていく人生でいいんだ。



 そんなことを考えていると、梶原さんが席に座ったまま、少しばかりこちらに視線を向けていることに気付いた。

 そして、「でも好きな相手だけには、ちゃんと興味持ってもらいたいよね」と、僕は少しばかり思いなおる。梶原さんからも無視されるのはさすがに悲しい。

 梶原さんどうしたんだろ。ひょっとして僕のこと気にかけてくれてるのかな。


 まあ万が一そうだったとしても、それは恋愛的なまなざしじゃなくて、ただ単に自分がフった相手が不登校になって心配してただけなんだろうけど。


 実際のところどうなのかな。ほんの少しでも心配してくれてたなら、ちょっとうれしい。

 だからって梶原さんが僕のことを好きになってくれる可能性はないんだけどね。梶原さんは女の子が好きだから。とても悲しい話だ。なぜ男なんだろうね。僕は。


「あ、そうだ。転校生にまだ会ったことないんだよね。おーい! 樋口さん!」


 心春が呼びかけると、他の女子生徒たちとおしゃべりしていた見知らぬ女の子が、こちらに歩いてきた。


「どうしたの? 委員長」

「この子は高屋優くん。樋口さんが来る二日前からずっと休んでたから。自己紹介してあげて」

「いや、あの。僕そういうの必要ないから。わざわざ手を煩わせなくてもいいよ」

「樋口香織です。よろしくお願いします」


 女の子・樋口さんは僕に頭を下げてくる。いくら僕でもこの状況で無碍につっぱねるわけにもいかず、「う、うん。よろしくね」と返答する。

 こんな陰キャで地味なの僕にも、嫌な顔一つせず自己紹介してくれるこの子。けっこういい子なのかもしれない。


 柔和な目をしたおとなしそうな顔だちの、小柄な女の子。かなりの美人さんだ。若干西洋の血が混ざってそうな日本人離れした顔だち。クォーターかなにかかな?


 というわけで、充実はしてない僕の学校生活は再開。僕の久しぶりの登校は、なんだかんだなんとか悪くない感じに成功しましたとさ。

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