『魔法少女まじかる☆ルーク』という謎の二つ名
「あの……」
この銀行の職員らしき初老の男性が僕に声をかけてくる。何やら複雑な表情で。
そりゃそうだよね。銀行強盗を何とかしてくれた相手とはいえ、こんな魔法少女じみた痛い格好だし、ルークの姿は見えないからあまつさえ虚空に向かって話しかけてるように見えてるだろうし。
「わたくしはこの銀行の支店長でございます。あなたが、我々を助けてくださったのですか?」
「いえ。そんな。助けただなんて……」
向こうが勝手に自滅しただけだし。
その瞬間、パトカーの音が聞こえてくる。まずい。また警察だ。
っていうかさっきのスーパーに来てた警察がまだ帰ってないんだから、そりゃすぐに連絡いっちゃうよね。早く逃げないと。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
「あの! せめてお名前だけでも!」
名前? まさか本名名乗るわけにもいかないし、こんな懇願するように訪ねてくる人を放置しして逃げるのも気が引ける。
「ルークって名乗っとけ。それでいいだろ」
「ル、ルークです!」
けっこう痛い名前だと思うけど、どうせこんなフリルのついたロリータじみてる格好で変なビーム乱発してるんだから、今更この程度のこと大した恥じゃないでしょ。
そのまま僕は逃げるように銀行を後にした。
『〇〇市のスーパーマーケットと銀行に、黒の前身タイツを着た男と、スーツ姿の強盗が押し入り、それを撃退したのは、なんと「魔法少女」としか形容しようがない少女だったそうです』
「なんてことだ……。なんてことだ…………」
僕は自宅リビングにあるテレビの前で、一人頭を抱える。
家に帰って、自作の晩御飯を一人で食べながらニュースを見ていると、どこのチャンネルでも今日の事件が大きく報道されていた。
強盗事件自体は(犯人の容姿以外は)ありふれたもので、別段大ニュースになるほどのものでもないんだろうけど、生憎それを撃退した誰かさんが突飛すぎて、こうしてニュースになってしまっているらしい。
幸いにも、ニュースに出てる銀行の監視カメラの映像では、僕の顔ははっきりとは映っていなかった。ルーク曰く、こういう電子記録には顔が残らないようになっているらしい。だからこの映像が警察の手にわたって、僕の正体が特定されるおそれはないとのこと。
『しかし彼女は謎の光学兵器を使っています。このような蛮行を許していたら』
変な評論家のおじさんが何やら話してるけど、僕はもう頭が痛くなってきたので素直にテレビを切って現実から目を背けることに決めた。
「ネットでもすげーぞ。お前の評判」
ルークが僕のパソコンを勝手に触りながら言う。その小さい体躯ゆえに普通にタイピングすることはできず、僕の指ほどの太さの足でキーボードを踏みながら器用にパソコンを操作しているようだ。
「ツイッターやにちゃんねるにまとめサイト。どこを見てもお前の話で持ちきりだ」
そうらしい。つらいことに、僕は今日一日でいきなり有名人になってしまった。
「魔法少女まじかる☆ルーク」
それが僕のネット上での呼び名らしい。おかしいな。僕は「ルーク」としか名乗ってないはずなんだけど、どうしてこんな余計な接頭語がついてるんだろう。
「ネットは特に尾ひれ羽ひれつくもんだからな。しゃあねえよ。まあおおむね好意的な意見だしいいんじゃね」
なんか君が操作してるパソコンのディスプレイを見てると、どうみてもキモオタおじさんがはあはあしてるだけにしか見えないんだけど。
「っていうか僕はいつまでこんな魔法少女として悪と戦う、なんていうへんてこりんな生活を続ければいいの」
「もちろんフェアリールージングを倒すまでだ。その先は自由だが、それまでは協力してもらうぜ」
ああ、やっぱりそうなっちゃうのね。
「というわけで、あらためてよろしくな。魔法少女まじかる☆ルーク!」
「僕をその名前で呼ぶな!」
いくらネット民の間に浸透しようと、僕はその呼び名を絶対に認めないからね!
こうして、僕・高屋優の、魔法少女としての生活が幕を開けたのでした。
いったいどうして僕が悪の組織なんかと戦わなくちゃいけないんだろう。しかも男なのに魔法少女として。
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