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なぜ必殺技を初手で撃ってはいけないのか

「それと、あの怪人は『ポーン』。多数いるポーンの中でも、ありゃかなり弱い奴だ。あと、次からはくれぐれも最初に必殺技を撃つなんて馬鹿なまねするんじゃないぞ」

「なんでダメなの? 確かにさっきは梶原さんに当たりそうになって危なかったけど、今度からはちゃんと安全確認して撃てばいいでしょ?」


「あのなあ。最初から必殺技を撃つようなヒーローに、お前はあこがれるのか?」

「いや、憧れられるとかどうでもいいんだけど。ぶっちゃけ人に姿見られたくないし」



 よく思うんだけど、テレビの特撮ヒーローとかって、どうせ必殺技で敵ワンパンできるんだから、最初から必殺技撃ってしまったほうが町の被害が少なくなるんじゃないかな。



「真面目に話をするとだな。必殺技は魔力をごっそり消費するんだ。当然そのあとは隙が大きい。もちろん倒せれば関係ないが、今のお前の練度じゃ一撃で倒せるのは弱い敵だけだ。

 今回はたまたま怪人が弱かったからいいもの、もし倒せなかったら大変なことになっていた。

 それに、必殺技は発射前の隙が大きい。今回は不意打ちという形になったから問題なかったが、途中で攻撃されるのを防ぐためにも、まず弱らせてから撃たないといけないんだ」


 へー。そんな理由があったんだ。確かに、ライダーキックとかって滞空中の隙が大きそうだから、弱らせてから撃つっていうのは理に適ってる。



「これからもいろいろとほかの魔法も教えていくから、ちゃんと覚えろよ」

「えー……。あれってセリフ言わないとだめなの?」

「ったりめーだろ。お前それでも魔法少女の自覚あんのか」


 だからないって言ってるでしょ。


「それと、魔法少女の魔力は、人の応援の力で増幅されるんだよ。特に小さい子供からの人気は効果が大きい。だから小さい子から憧れられるようなヒーローにならなきゃいけないんだ。日朝の番組に出てくるヒーローがガキに媚びるのもそれが理由だぞ」


 うわあ。なにそのおどろおどろしい理由。聞きたくなかったよ。

 どこまでこの子は子供の夢を壊すつもりなんだろうなどと考えていると、突然ルークが険しい表情を見せる。


「どうしたの?」

「怪人の気配がする……。あっちだ!」


 ルークが指(手?)を指し示す先、それはさっきのスーパーの向かいにある銀行だった。



「どうやら勘違いに気付いて、別の怪人を送りつけてきたらしいな。いくぞ!」



 えー……。銀行と間違えてスーパーに行ってしまったような間抜け連中なら、別に僕らが戦わなくても勝手に自壊してくれそうなもんだけど。


 しかしそんな僕の文句はルークの耳には入らず、抵抗むなしく僕はルークによって銀行の近くまで引きずられていく。



「よし、ここで変身しろ!」



 銀行の裏手、全然人が来なさそうな場所にまで僕を引っ張って、ルークは言った。

 仕方ないので、僕は先ほどの要領で「変身!」と叫び、魔法少女の服装にチェンジする。


 銀行の中では、またポーンとやらと似てる、全身タイツを着た男が、「キョイー!」と奇声を上げながら、銀行職員にズタ袋を突き出しつつ刀を向けている。銀行中が大パニックに陥っており、逃げ遅れた客は壁際に座らされていた。

 さらにその後ろに、馬の被り物をしたスーツ姿の男が立っている。


「ナイト……」


 ルークがつぶやく。その声を聴いて、馬の被り物をした男は、こちらに視線を向けた。


「これはこれは。裏切者のルークではありませんか。あなたも人間を変身させて戦うことにしたのですね」

「うるせえ! 俺はお前と違って人間の意志を奪ったりなんてしてねえよ! 優。気を付けろ。あいつは人間の体を完全に乗っ取ってやがる。意志を奪って、無理やり戦いに狩り出してるんだ。ひどいやつだぜ」


 なんか今ひどいブーメランを見た気がする。君だって僕の意志を奪ってはいないけど、強引に戦わせてる点は変わらない気がするんだけど。妖精同士のいさかいに人間を巻き込まないでほしいものだ。


「戦うぞ。優。言っとくが、今度はお前の必殺技一撃で倒せる敵じゃねえ。くれぐれもいきなり必殺魔法を撃つんじゃないぞ」

「わかったよ……っ! やればいいんでしょ。やれば! ところで、ここであのナイトとやらを倒したら、乗っ取られてる人間が死んじゃったりしないよね?」

「もちろんだ。そいつは戦闘ダメージが致命傷になることはない。ダメージを受けるのはナイトだ。だがお前は気を付けろ。変身の形態的に、こっちはダメージの一部をお前自身の体が背負うことになるぞ」


 え。なにその不公平すぎる状況。


「しゃーねえだろ。ダメージを全部俺が負担しようと思ったら、お前の体を乗っ取るしかないんだ。それよりはこっちのほうがましだろうが」


 押し売り甚だしいにもほどがある。なんで一方的に戦いにつれだしておいて、そんなひどい二択を突き付けてくるのか。

 しかしルークに文句を言っていても何ら状況は変わらない。


 僕は一刻も早くこのナイトとやらを倒すことに決めた。


「ふっふっふ……。準備はお済ですかな? 我らフェアリー・ルージングに盾突くということが、どれだけ恐ろしいことか教えてあげましょうか」

「な、なにをするつもりなの……?」




「まず手始めに、あなたの個人情報を特定し、ネット上の掲示板に個人情報を晒しあげ、悪行を捏造することで大炎上させ、あなたの将来を台無しにしてあげましょう!」




「なにその地味におそろしいやり口!」

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