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果てし無き、戦いのはてに

 けど、どうやって。

 どうやってクイーンを倒せばいいんだ?

 

 この圧倒的な火力と耐久力の差。それを埋める方法なんて、いったいどこに……。

 その時だった。



『がんばれ! まじかる☆ルーク!』



 突然僕たちの近くで鳴り響く声。慌ててあたりを見回しても、近くに人は誰もおらず、その正体をつかむことができなかった。



『がんばれ!』

『応援してるぞ!』

『世界を救ってくれ!』

『がんばえー!』



 それを皮切りに、沢山の声が僕たちの周りで響き始める。声は男の人、女の人、子供から年寄りの声まで多種多様だった。言語も日本語に限らない。共通しているのは、それらが僕への応援の言葉ということだ。


「すげえぞ優! 魔力が一気に溜まり始めてる!」

「ええ!?」



 ルークの言葉が真実であることは、すぐに僕にも分かった。

 莫大な量の魔力が僕の中に流れ込んでくる。それは先ほどクリスタルから得た魔力すら比較にならないほどのものだ。

 ジュエルフォンに着信が入る。心春からだ。


『優くん! 「声」はそっちに行ってる?』

「え。じゃあこの声は心春が?」

『うん。私がテレビを使って、日本中に呼びかけたの。「魔法少女まじかる☆ルークを応援する声を上げてください」って。あとは私の声を届ける魔法で、それらを全部優くんのところに送ったの』


 確か応援の声は魔法少女の魔力を増幅させるんだっけ。それを利用したということか。

 けど、そう考えると疑問が生まれる。


「心春って、確か狭い範囲にいる何人かの声しか届けられないんじゃなかったっけ?」


 だから効率が非常に悪く、それだったら広く浅く応援の意思を持ってもらうほうがいいとルークは判断したと以前に聞いた。


『普段はそうなんだけど、今の私はクリスタルの魔力があるから』


 そうか! 小さいほうのクリスタルにもかなりの魔力が入っていた。だからそれを使って、心春は僕に声を届けてくれたんだ! 今の心春なら、世界中の声を届けることができるのか!



『優くんがアジトから出ていくとき言ったよね。「応援してて」って。そこで私は閃いたの。戦えない私が、このクリスタルの魔力を使って優くんのためにできることを』


 僕はそんな意図で言ったわけじゃなくて、ただ純粋に勝利を祈ってて欲しかっただけなんだけど、それがこんな形で僕の力になるとは。



『あとは、私の術式を送るね。これで優くんも、一時的に炎と電気の魔法を使えるようになって、少しは火力が上がるはずだから』



 心春の言葉とともに、ぽんと僕の目の前に心春が使っていた弓が現れて、僕のステッキに溶け込んだ。



『これで私ができることはすべて。あとは優くん、頑張って!』



 そう言い残して心春は通信を切った。

 僕はそのあとも聞こえ続ける応援の声の数々に、耳を傾ける。

 そうか。僕はこんなにもみんなに期待されているんだ。

 ずっと隅っこで生きてきた。

 友達もろくにいなくて、スポットが自分に当たることなんてない人生だった。

 そんな僕を希望としてくれている人がたくさんいるんだ。その事実は、魔力以上に僕の心に力をくれた。


「いこう。ルーク! 今度こそ最終決戦だ!」

「おう! やっぱりお前は最高のヒーローだぜ!」


 僕は自らの体を浮かび上がらせて、再びクイーンのもとへと向かう。今の僕には無尽蔵と言っても差し支えないほどの魔力がある。箒なんかなくたって、高速で飛行することが可能だ。

 目の前に再び現れた僕を見て、クイーンは初めて驚愕の表情を見せた。


「なぜだ。なぜ貴様はそうも幾度となく立ち上がれるのだ」



「そんなの、決まってるじゃないか! 僕は魔法少女で、ヒーローで、みんなから期待されているから。みんなが僕の活躍を願っているから。だから、僕はそれに応える。ただそれだけのことだよ!」



 僕の掲げたステッキが炎をまとわせ始める。


「これが僕らの力だ! アトミック・フレイム!」



 僕はステッキを思い切り振り下ろした。巨大な炎の奔流がクイーンへと向けて発射される。

 クイーンの体は大きく弾き飛ばされる。その顔に、初めてはっきりとした苦悶の色が浮かんだ。


「な、なんだこの攻撃は。これまでとは火力が違う……っ!」

「当たりめえだろ。今の優を、ただの魔法少女だと思うんじゃねえぞ」



「クイーン。確かに君は単独では最強の存在なのかもしれない。これまでの僕なら、かすり傷すら負わせることができなかっただろうね。だけど、今の僕は違う。心春の、キングの、そして僕を応援してくれる世界中のみんなの存在が、みんなの想いが、僕の力になっているんだ!」



 クイーンは慌てて何本ものビームを発射してくる。

 僕は数本のマジカルビームを発射し、それらすべてを相殺させた。

 甘い。先ほどの必殺光線ならともかく、通常攻撃のビーム程度なら、今の僕には屁でもない。


「く……っ。ならばこれでどうだ!」


 クイーンの手の中に再び黒いエネルギー体が現れる。そこから再びクイーンの必殺光線が発射された。


「ルークシールド!」


 僕の目の前に巨大な防御壁が現れる。クイーンの必殺光線を受け止めて、難なく消滅させた。 

 クイーンはビームによる攻撃を諦めたのか、直接僕らに向かって殴りかかってくる。

 速い! だけど、今の僕になら容易に対処できる。

 僕は飛行魔法を使ってクイーンの攻撃を躱す。そしてそのままクイーンの背後に回った。


「優、クイーンは必殺技を使った反動で大きな動きはできないはずだ。決着をつけるなら今だぜ」

「わかってる!」


 僕はいったんクイーンから距離を置き、全身に魔法のエネルギーを充満させる。

 ルークフラッシュビームのときと同じ魔法の粒子が僕の全身に纏われオーラを形作る。そしてその外側に心春の術式によって、バチバチと電気が流れ始めた。


「みんなの未来、僕とルークで作ってみせる!」



「だから、邪魔すんじゃねえぞ!」


 僕はいったん空高く飛び上がる。そして高速飛行能力と自由落下を組み合わせ、猛スピードでクイーン目がけて落下した。



「アルティメットー!」



 僕が叫ぶ。



「イナズマー!」



 ルークが叫ぶ。




「「キーック!」」




 僕とルークが二人で叫ぶ。

 一つの流れ星のように、僕らは残像すら残すほどの速さで、クイーンの体を斜めに貫いた。


「があああああああああああああああああああああああ!」


 大きな爆発。胸に巨大な風穴を開けられたクイーンは、慟哭しながらその場に跪く。

 僕は町に激突しないよう急ブレーキをかけて、地面に当たるぎりぎりのところで再び浮かび上がる。

 そうして僕らは空から倒れたクイーンの姿を見下ろした。


「やったな。優!」


「うん!」


 僕たちはそう言いながらハイタッチする。またルークの小さな手が僕の手のひらにちょこんと触れた。

 どう考えても今のダメージは致命傷だ。クイーンはもう立ち上がることすらままならないだろう。つまり、これで僕らの勝利だ。


「どうだ。クイーン! これが僕たちの力だ!」

「俺たちの勝ちだぜ! どうだ参ったか!」


 僕らはクイーンに向けて勝利の宣言をする。だけどクイーンはそんな僕らを見て、ふっと笑った。


「なにがおかしい! まだやる気か? どうせもうお前は勝てねえぞ」

「確かにわたしはお前たちに敗北した。確かにわたしの野望は潰えた。だが、これで終わりではない。人間界への侵出を狙っている者は、わたしだけではないのだ。中にはわたしよりも強い者も存在する。いずれお前たち人類は、妖精に支配される運命なのだ!」


 そしてクイーンの全身が光を放ち始める。


「な、なにをする気なの!?」

「クイーン! まさかお前、自爆する気か!?」

「その通りだ。どうせわたしは今ここで死ぬ。ならば、できる限りの犠牲を生み出してやろう。お前らも道連れだ!」


 クイーンがまとう光はどんどん強くなっていく。まずい。クイーンはもう戦闘不能だとはいえ、残っている魔力は相当なものだ。それらがすべて暴発したら、半径何十キロもの範囲が焦土と化してしまう。


「ルーク! 今クイーンにとどめを刺せば自爆は止まるかな?」

「無理だ。すでに自爆体制に入っちまった以上、そんなことをしても爆発を早めるだけだ」

「その通り! 地獄で会おう。ルーク! そして高屋優!」


 クイーンがそう叫んだ直後、クイーンの放つ光が弱まり始めた。


「な、なんだこれは……!?」


 クイーンがその現象に慌てふためく。僕らも何が起こったのか理解できず、ただその光景を見つめていた。


「まさか、素体の意思か!?」


 クイーンは自分の体を憎らしそうに見る。

 素体って、梶原さん!?


「ルーク様を傷つけるなんて、そんなの絶対許さない」


 クイーンの体の中から声が聞こえてくる。この口調、明らかに梶原さんの言葉だ。


「おのれ……、人間の分際でわたしに歯向かうなど、許さんぞ……!」


 それが断末魔の言葉だった。クイーンの体は端から光の粒子と化して消滅していった。

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