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誰かを助けるのに理由がいるかい?

「もちろん、それは最終手段だ。無事に勝てるようなら、そっちを優先する」


 僕はクイーンのいたほうへと向けて、箒を向かわせた。


「……これで最後かもしれないから、お前に言っておきたいことがある」

「なに?」

「実は人間を魔法少女にするために必要なのは、素体と妖精の魔力の波長があうことだけじゃねえんだ」

「へえ。初耳だね。他に何があるの?」



「もう一つの条件、それはその人間が内に強いヒーロー願望を持ってるってことだ。表面上はどうでもいい。心の奥深くにそういう願望があることが条件なんだ」



 なるほどね。ルークと契約した段階で、僕自身表向きどう思っているかはさておき、潜在意識にはヒーロー願望があるってわかってたわけだ。


「なんでずっとそのこと黙ってたの?」

「昔のお前にこんな話したら嫌がるだろ」


 確かに。かつての僕なら、めちゃくちゃ拒絶していただろうね。

 だけど、今の僕にとっては、このルークの言葉は紛れもない誇りとなっていた。


 僕がクイーンのほうへと向かって箒を走らせていると、下から「誰か助けて!」という女のひとの声が聞こえてきた。

 見ると、下はクイーンに踏まれたらしき場所だった。建物はことごとく崩れ、ところどころ火が上がっている。

 僕は慌てて箒を下して、女の人のところへと向かった。


「どうしましたか?」

「奈々子が……。娘がまだ中にいるんです!」


 女の人は泣きながら目の前にある一軒家を指さす。どうやらクイーンに蹴られたらしく、二階が完全に崩れてその瓦礫が一階にめり込んでいた。


「僕が助けてきます!」


 僕はすぐに家に飛び込んだ。瓦礫や倒れた棚を押しのけて、女の子を探す。


「おい優。今は一刻も早くクイーンを倒すべきだろうが」

「そうなんだけど。そのほうが全体の被害は少なくなるってわかってるんだけど、だけど助けを求める声を聞いちゃった以上、ほっとけないよ」

「ったく。お人よしにもほどがあるぜ。さっさと済ませるぞ」

「わかってるよ」


 そしてキッチンに入ったところで、何やら机の下あたりからすすり泣く声が聞こえてきた。僕は瓦礫や食器棚を押しのけて、机の下をのぞき込む。

 そこでは7歳くらいの女の子が、涙を流して座り込んでいた。


「君が奈々子ちゃん?」


 女の子は僕のほうを見て、一度だけうなずく。


「怖かったよね。もう大丈夫。お母さんが外で待ってるよ」


 僕は机の下から這い出してきた女の子を連れて家の外に出た。

 さっきの女の人は、女の子を抱きしめてわんわんと泣く。そして僕に向かって何度も何度も「ありがとうございます」と繰り返した。


「さて、時間食っちゃったね。急がないと」


 クイーンはここから数キロ離れたところでまだ暴れている。あっちこっちにビームを放っている。


「待ってください」


 女の人が僕を引き留める。


「せめて、お名前だけでも」

「ルーク。魔法少女まじかる☆ルークだよ!」


 僕は箒に乗って飛び立った。


「ルークお姉ちゃん。ありがとう!」


 女の子が後ろから僕に向かってそう叫んでくる。僕はお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど、そんなことは気にしていられない。

 今度は一直線にクイーンのところへと向かう。


「さあ、行こうか。最終決戦だ!」


♦ ♦ ♦


 高屋優が飛び去った後、天野心春はフェアリールージングアジトの地下倉庫に取り残された。


「ごめんなさい。私がクリスタルを一つ無駄に使ってしまったばっかりに」


 心春はキングと早苗に頭を下げる。早苗は「そんなこと気にしなくていいって」と返した。


「だけど、あのクリスタルがあれば、優くんはもっと有利に戦えたんだし」

「天野心春よ。そう思うなら、おぬしはおぬしにできることをやればいいじゃろう。それで1号のクリスタルの魔力分以上に活躍できれば、何の問題もない」

「そうは言っても、私はもう戦えないし、何もできないですよ」



「無いものばかり数えるな。無いものは無い。確認せい! お前にまだできることはなんじゃ!」



 突如一喝するキング。心春はびくりと肩を震わせた。


「私に……、できること?」



 高火力な魔法を撃つだけなら優くんのほうがずっと得意だ。私にできることと言ったら、いろんな器用な魔法だけど、そんな小手先の技術が今クイーンとの戦いで役に立つとは思えない。


 そこで心春は思い出した。


 優が、出発する寸前にかけてきた言葉を。



『心春は安全な場所から「応援」して! 僕の戦いを!』



 その瞬間、心春に訪れる天啓。


「そっか……っ!」


 これなら、戦えない私にもできる。

 普段の私には到底無理だけど、今の私になら、クリスタルの魔力が有り余ってる今なら、できる。


「ビショップ。魔法少女の姿ってカメラに映るとぼやけるけど、確か魔法少女の意思があれば普通に映ることもできるんだよね」

「できまちゅが……。一体何をするつもりなんでしゅか?」

「なら大丈夫。ありがとうキング。お陰で思い浮かんだ」


 キングの一喝で、この答えにたどり着くことができた。二次元大好きジジイにもいいところはあるようだ。


「礼には及ばんよ。正直、おぬしが至った答えには想像がつかん。わしは少しばかり手助けをしただけじゃ」



 心春とキングは目を合わせ、お互いにふっと微笑む。そして心春はジュエルフォンを取り出した。



「変身!」



 心春の体が光に包まれて、体の各所で弾けていくとともに衣装が現れる。そしてすべての光が弾けて、これまでとは違う衣装を着た心春は、弓を握り地面を踏みしめた。

 この衣装は今の優が着ていたものの色違いだ。優は水色だが、心春はピンク色になっている。


 やはりそうだ。心境の変化というのは大きく衣装を変化させるらしい。

 心春は箒にまたがって、高速で箒を発進させた。



「ダメでちゅ。心春ちゃんはまだ戦えないでちゅよ」

「戦わないよ。私は戦わずに、優くんを助ける。それが優くんと同じ時を生きる、唯一の方法だもん」



 地下通路を抜けてアジトの外に出た心春は、魔法の力も借りつつあるものを探した。


 そしてそれを見つけた心春は、箒で急いでそこへと向かい、地面に降り立つ。


 そこは地形が高台のようになっており、クイーンが暴れている場所がよく見通せる。一台のアンテナを搭載した車が止まっており、テレビカメラを持った男性とテレビマイクを持った男性とプロデューサーらしき男性、そしてスーツ姿でマイクを持った女性がそこにいた。車に書かれたマークは、とある全国放送のテレビ局のものだ。地方ローカルでなくてよかった。これなら心春のやろうとしていることが高い効果を出せる。



「ご覧ください! 突如この町に現れた巨大動物が、町を破壊し続けています!」



 女性がカメラに向かって叫ぶ。心春はその女性に近寄り、マイクをもぎ取った。



「な、何するんですか!」

「ごめんなさい。少しだけ、私に話させてください」


 そして心春はマイクを持って、カメラに向かって語る。



「全国のみなさん。あそこで暴れている怪物はクイーンと呼ばれる悪いやつです。あいつを野放しにしていたら、この世界は破壊し尽くされてクイーンに支配されてしまいます」



 レポーターの女性が力ずくで心春からマイクを奪い返そうとするが問題ない。魔法少女の力に人間が敵うはずないのだ。



「あらゆる軍事力を使っても、クイーンを止めることはできません。クイーンを倒せるのは、魔法少女まじかる☆ルークだけです!」



 その言葉に、プロデューサーらしき男性がぴくりと反応する。そして心春を止めようとする行動をやめ、画用紙に何かを書いて女性に見せた。



『今話題のまじかる☆ルークなのか聞け』



 それを見て、女性はあからさまに怒りを押さえつけている表情で、心春に向かって


「その魔法少女というのは、今、主にあの町を中心に人助けをしていると巷で話題の魔法少女まじかる☆ルークですか?」

「はい! あの子は今クイーンを止めるために戦っています。みなさんを守るために! だからみなさん、協力してください。あの子に!」


 ばっちりカメラとマイクは心春のほうへと向けてくれている。プロデューサーが心春の言葉を放送すると決めたようだ。


「協力するというのは、迅速に避難するといったことでしょうか」

「それもありますが。まず、テレビ局の人たちはもっとあの子の姿をしっかりと映してください!」


 心春は叫ぶ。


「そしてテレビの前のみなさんはあの子を、魔法少女まじかる☆ルークを応援してください。応援の声をあげてください!」


 心春は叫ぶ。 


「たとえ一人ででもかまいません、町中ででもかまいません。この戦いを見ているすべての人にお願いします!」


 心春は力の限り、魂の叫びを電波に乗せて世界中へと発信した。

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