表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/48

負けて帰ることのほうが勇気の要ることなんだ

 クイーンはマンションの裏庭から見るよりもずっと遠くにいた。それだけクイーンの体躯は大きい。おそらくキングロボ2号の十倍、500メートルはあるだろう。

 僕が箒でクイーンのもとへと向かっていると、隣を心春が並走してきた。


「心春! ビショップ!」

「優くん! よかった。また魔法少女になったんだ」

「やいビショップ! この戦いが終わったら、きっちりストーキングアプリについて解説してもらうからな!」

「まあまあ。それのおかげで君の命が助かったんだし。今はその話はよそうよ」


 僕だって梶原さんの家に押しかけてきたときのことを、心春に問い詰めたい。だけどそんなことはこの戦いが終わってからやればいい話だ。


「優。あいつの耐久力はこれまでの怪人の比じゃねえ。心春と協力して、ありったけのパワーを一撃に込めろ。おそらく喉のあたりが弱点だ。そこに全力の攻撃を叩き込むしか、勝機はない」

「わかった! 心春。僕は左側から回り込むから、君は右側からお願い。クイーンの正面で合流して、そのあとの一撃にすべてをかけよう」

「了解。優くんも気を付けて!」


 そうして僕は心春と二手に分かれて、それぞれ反対側から箒での飛行により、クイーンの正面に移動する。そこでクイーンはようやく僕らの存在に気付く。



「やはり来たか。しかしもうお前らの力ではわたしを止めることなどできない」



 あれ。この声、以前にフェアリールージングのアジトや放送で聞いた声とは違ってる。

 だけど聞き覚えのある声だ。そう思った直後、僕はすぐにそれに気付いた。



「この声、梶原さんの声じゃないか!」


 まさか、クイーンが見つけた素体って……っ!


「ああ、素体の人間がそのような名前だったな。わたしに協力すればビショップを倒せると言ったら、すぐに身を任せてくれた」


 そんな馬鹿な。梶原さんはそんなことをする子じゃない。きっと騙されているんだ。クイーンに。


「一度体を奪い取ればこちらのものだ。完全に意思を奪い去っているのだからな」

「クイーン! お前!」


 よりにもよって、よくも僕の一番好きな人を。

 許せない。絶対に許せない。


「ふざけるな! 梶原さんを返せ!」

「優、問題ない。これまでの怪人を思い出せ。完全に意識を乗っ取っているなら、その変身後の姿が受けたダメージは本人には影響を及ぼさねえ。要するにクイーンさえ倒してしまえば、その女も取り返せる」


 そうだ。確かに、これまでの怪人も、倒してしまえば素体の人間は無事に無傷で元の姿に戻った。クイーンさえ倒してしまえば、梶原さんも元に戻せるはず。

 やっぱり、戦うしかないんだ。戦って、勝って、梶原さんを取り戻す!



「心春! いくよ!」

「うん!」


 僕は心春のとなりでステッキを構える。心春も弓を構えて、僕らは同時にありったけの魔力を込めた。


「ルークフラッシュビーム!」

「エレクトリックフレイム!」


 僕のステッキから巨大なビーム、心春の弓から電気と炎を纏う大きな弓が射出される。僕のビームは心春の弓に絡まり炎と電気と混ざり合い、さらに巨大なオーラとなって一直線にクイーンの喉を狙って飛んでいく。

 僕らはこの一撃にすべてを込めた。心春と、以前よりもずっとずっと強くなった僕の合体魔法だ。


「いっけえええええええ!」


 そして僕らの放った究極の一撃は、見事クイーンの喉に命中し、すこしだけクイーンをよろめかせて、消えた。

 僕らはその光景を見て、何が起こっているのかわからずあっけにとられる。するとクイーンが大きな声をあげて笑い始めた。


「思っていたよりはできるではないか。しかし、今のが全力なのであれば、わたしを倒すには遠く遠く、及ばない」


 なんということだ。あの攻撃を弱点に受けて、ちょっとよろめいただけだなんて。


「もう終わりか? ならば、今度はこっちの番だ」


 クイーンの手に何やら光の玉が現れ、エネルギーを吸収して膨らみ始める。


「哀れなものだ。なまじ強いばかりに、本当の恐ろしさを見ることになるとはな。泣くがいい! 叫ぶがいい!」



 クイーンの光の玉から僕の体の何倍もありそうな太いビームが発射される。これはまずい。こんなのに当たったら、僕らの体は一瞬で蒸発してしまう。



「ルークシールド!」

「ビショップバリア!」


 僕と心春は同時に防御壁を展開する。でもだめだ。先ほどの一撃に、僕も心春もほとんどの魔力を使い切ってしまった。この防御壁も、もうほとんど持たないだろう。


「優くん! 逃げて! 私たちのシールドも、もう持たない!」

「何言ってんのさ。心春も一緒に逃げないと」

「そんなことしたら、このビームは町を襲うし、優くんが巻き込まれるかもしれない。だから、逃げて」

「そんな……」


 確かに、ここで僕らが逃げれば町は壊滅するし、何よりこのビーム逃れ切れる保証もない。

 だけど、心春を見捨てて逃げるなんて、できっこないよ。


「優くん。心春ちゃんのお願いを聞いてあげてくだちゃい」


 ビショップが僕の前に現れて言う。


「いざとなったら、あたちの残存魔力と生命エネルギーをすべて使い切ってでも、心春ちゃんの命だけは守りまちゅ。だから、逃げてくだちゃい」

「優くん。私、ずっと優くんのことが好きだった。だから、一緒に魔法少女として過ごせるのは、二人だけの秘密を共有してるみたいで、すっごく楽しかった。だから梶原さんちでの行動が見てられなくって、つい嫉妬して乱入しちゃったの。……ごめんね。それから、本当にありがとう」


 そして心春は僕の体を突き飛ばす。僕の体は箒から落下した。直後、心春のバリアが完全に破壊され、心春はクイーンのビームに飲まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ