好きになった異性との間に可能性すらなくて悲しい
その後、僕はルークと町の中を歩く。
「ねえルーク。君みたいな変な生き物がいたら、みんなに騒がれないかな」
「騒がれるわけねえだろ。こんなキュートな外見なんだぞ」
自分で言うか。まあ見た目「だけ」はかわいいけどさ。
「冗談だ。俺の姿は普通の人間には見えねえし声も聞こえねえ。お前は俺とぶつかった拍子に波長があったのか、見えるようになってるだけだ」
よくわかんないけど、要するに見えないってことでいいのかな。
「それより気をつけろよ。無用意に外で俺としゃべると、虚空に向かって話しかけてる痛いやつみたいになるぞ」
まあそれは適当に電話してるふりでもするから大丈夫だよ。
「あ、優くん!」
背後から聞こえる聞き覚えのある声。振り返ると、そこには僕のクラスメイトで幼馴染、真面目な堅物委員長・天野心春がいた。
「心春。どうしたの?」
「ちょっと買い物。優くんは?」
「僕も買い物だよ。夕飯の」
「そこのスーパー今日はもう閉店してるから気を付けて。なんか立てこもり事件があったんだって」
「あ、そうなんだ。じゃあ別の店いかないとなあ」
その事件解決したの僕だけどね。魔法少女に変身して怪人やっつけたの。
とは言うこともできないので、僕はさも今知ったかのように呟く。
「さっきも言ったけど、明日は学校に来てよね」
「いや待ってよ。ちゃんとそのうち学校行くからさ」
横でルークが「おい、どういうことだよ。お前まさか学校行ってないのか?」などとうるさいので、殴って黙らせる。
「……どうしたの。いきなり腕振り回して」
「え? ああ、うん。なんでもない。気にしないで」
これ以上変な行動を心春に見せないためにも、僕はそそくさと心春のもとを去った
「おい、なにすんだ。痛てえぞ!」
鼻先を真っ赤にしたルークが大層怒った様子で言う。
「勘弁してよ……。僕心春と話してるんだからさ」
「それは悪かったが、だからって殴ることはないだろ。……それより、どういうことだよ。学校に行ってないって」
それ聞かれたくなかったから殴ったんだけど。まあ仕方ない。
「……そのまんまの意味だよ。ここ数日、僕は学校に行ってない。それだけ」
「なんでだよ。……別に頭ごなしに学校に行けなんていうつもりはないが、理由を聞かせてくれよ」
「なんで君なんかに……。まあ別にいいけどさ」
そして僕は語る。
学校に行けなくなった原因を。
「告白、したんだよ。さっき怪人にとらえられていたあの子に」
そう。僕は数日前、梶原さんに告白した。たぶん一目ぼれだったと思う。僕はずっと梶原さんのことが好きで、この間ついに告白したんだ。
「ふられたのか」
「…………」
僕はルークの言葉に何も返せず押し黙る。
「気にすんなって。そんなこと。これもきっといい思い出になるさ。青春はいいねえ。さっさと次の女見つけるか、もう一度アタックしてみろよ」
「いや、僕もただフラれたならいいんだけどね」
「どうした? こっぴどく貶されたのか?」
「梶原さんはそんなことしないよ。ただ……」
「ただ?」
「『ごめんなさい。私レズビアンだから男性とはお付き合いできないの』だって! もう希望なんてありはしないよ!」
「ぶふっ……。そりゃあ傑作だな!」
「わ、笑わないでよ」
「こ、これが笑わずにいられるかよ……っ! 腹がよじれるぜ」
「そういうのよくないよルーク。誰が誰好きでもいいじゃないか。その相手が同性だって」
「ちげーよ。その女じゃなくて、お前が間抜けだから笑ってんだよ」
僕の目の前で笑い転げるルーク。あの。そろそろもう一発殴ってもいいですか?
あの言葉を聞いた時には本当にショックだったね。「異性として見れない」「他に好きな人がいる」とかなら、まだ希望があるかもしれないと思えるけど、「同性愛者なんです」はさすがに諦めざるを得ない。
「そりゃあもう希望はねえわな。さっさと次の女見つけろよ」
「いや、僕だってそうしたいんだけどさ。そうしたいのはやまやまなんだけどさ」
失恋したから次の子ってわけにはいかないじゃん。僕の彼女への恋慕は、いまだ消えていない。
その証拠に、僕はわざわざ彼女を助けるために恥ずかしい恰好晒して魔法少女として戦うことを選んでしまった。
「けどよ。お前がその失恋でショックを受けたのはわかるが、それと不登校がどう繋がるんだ?」
うっ。痛いところついてきた。
「いや、さ……。怖いんだよ」
「怖いって、学校に行くことが、か?」
「うん……。なんというか、僕、友達もろくにいないからさ。クラスメイトに馬鹿にされてるんじゃなかって不安で。あと梶原さんに変な目で見られるのが怖い」
「考えすぎだろ。いくらなんでも」
うん。わかってる。僕の変な思い込みだって、そんなことは重々承知してる
けど、どうしても怖いんだ。ショックなふられかたしたせいで精神的に不安定になってるからというのもあるんだろうけど。
もちろん、こんな生活を続けてちゃいけないのはわかってる。近いうちに学校にはいくつもりだ。
「近いうちっていつだよ。休む日数長いほど行きにくくなるぞ」
正論いわれてぐうの音も出なかった。
「だからあの女も言ってた通り、ちゃんと明日は学校行け。な?」
「……わかったよ」
もともと僕もそろそろ行かなくちゃと思ってたところだ。心春やルークに背中を押してもらう結果になって、かえって良かったのかもしれない。
「ところで、聞き忘れてたけど、さっきスーパーにいた怪人って、なんの目的があってあそこにいたの?」
「知らねえよ。フェアリー・ルージングどもの考えなんて。資金調達のために強盗でもしようとしてたんじゃないのか?」
そうなんだ。けどスーパーの向かいに銀行あるんだけど、なんでそっちを襲撃しなかったんだろう。
「案外間抜けなやつらだからな。そういうミスもあるだろ。それか別の目的があったか」
「間抜けってレベルじゃないんだけど!?」
もし間違ってスーパー攻めたんだったら、その程度の組織別に僕が戦わなくても勝手に自壊してくれるんじゃないかな!?
だけど僕の心の叫びは、この自己中心的妖精に届くはずもなかった。