力なき者に未来はない 何者も守れはしない
ポケモンにドはまりしてました。すみません。
「さっさとこの店にある金を持ってきやがれ! そこの穴を修理する費用を用意しているはずだ。ねえとは言わさねえぞ。逆らったらこの女の命はない!」
かつての僕なら、そそくさとスーパーから逃げ出していただろう。
だけどなぜか、僕の足が出口に向かって動き出すことはなかった。
「今日は昼間の電波ジャックで警察も忙しいはずだ。すぐに警察が来ることなんて期待するんじゃねえぞ」
まるで火事場泥棒だ。男に捕まえられた女性は、顔を真っ青にして震えていた。
大変だ。僕が助けなきゃ。
僕は人気のない通路に入り、ジュエルフォンを構えるべくポケットを探った。
「あ……っ」
そうだ。もう僕は魔法少女にはなれないんだ。
なんて恥ずかしいミスだ。もうルークは僕のところにいない。魔法少女になれない僕には、なんの力もないんだ
結局、僕はどうすることもできずに、男は一枚の小切手と、大量の現金を持って店を出て行った。
「どうしてうちの店だけ……」と頭を抱えて絶望する店長。先ほどの女の人は人質に取られた恐怖からかへたり込んで泣き出していた。店内は暗い雰囲気に包まれる。
それを目の当たりにした僕は、買い物をすることなく逃げるように店を後にした。
適当にコンビニで弁当を買って家に帰る。それを食べながら、ずっと先ほどのスーパーでの出来事について考えていた。
僕が戦えたら、さっきの人たちをあんなふうに悲しませずに済んだんだろうか。
僕に力がなかったから、ああやってただ眺めていることしかできなかった。
僕は、それをなぜだかとてもとても悔しいと感じている自分に気づく。
「…………馬鹿らしい」
誰もいない部屋に向かってそう吐き捨てて、僕はベッドに飛び込んで、そのまま眠りについた。
夢を見た。
僕がまだ、幼稚園児のころの夢。
『しゃきーん! レッド様、参上!』
当時の僕は、手作りでちゃちな仮面をかぶって、クラスメイトとヒーローごっこを楽しんでいた。
あの頃は、本気でヒーローになりたかった。
人を助けて悪を挫く、そんなヒーローに憧れた。
だけどそんな幼稚な夢を見ることからは、すぐに卒業した。
今考えれば、それはスれているほうがかっこいいという、変な幻想に取りつかれたからじゃないかなと僕は思う。
結局僕はろくに友達もできないまま大きくなり、そして一度は魔法少女という形ではあったけれど、本当にかつて憧れた変身ヒーローになった。
かつての夢など忘れて嫌々戦っていた僕は、少しばかりやりがいというものを感じ始めたところで、悪と戦うことのリアルを痛感し、二度と魔法少女になんかならないと誓った。
あのときの僕が、今の僕を見たら、どう思うだろう。
きっと、すごく失望される。
きっと、ひどく罵倒されてしまう。
僕は、ただかつての自分に謝り続けることしかできないだろう。
だって僕は、それほどまでに臆病で、弱い人間なんだから。
そこで、目が覚めた。
部屋の天井が視界に入る。
僕はむくりと起き上がる。
頬に冷たい感触。指で触れてみると、それは僕の流した涙であることがわかった。
僕は鼻をすすってベッドから降りる。気分が沈んでいる今、できればずっと寝ていたかったけど、それこそ情けなさ過ぎて自己嫌悪でつぶれてしまう。
顔を洗って歯を磨く。鏡に映る半泣きの自分の顔は、とても醜く見えた。
その瞬間、大きなブザー音が鳴り響く。
「な、なんなの!?」
音の元を探して、それが僕の部屋にあるゴミ箱の後ろから聞こえることに気づく。
そうか、ジュエルフォン。ごみ箱に投げ捨てようとして、入らなかったのを放置してたんだっけ。
僕は震える手でジュエルフォンを持ち上げて、その表示を目の当たりにする。
『担当妖精が危機的状況』
「ルーク……っ!?」
このジュエルフォンはルークと繋がっているんだっけ。だったらルークがピンチであることを持ち主の人間に通達する機能があってもおかしくはない。
大変だ。助けに行かないと。
けど、どうやってルークの居場所を……?
「そうだ。ルーク様探知アプリ!」
ビショップがストーキングのために作ったシステム。こんな形で役に立つとは思ってなかった。
僕はすぐにそのアプリを起動する。すぐに地図が表示されてその中で一点が赤く光っていた。
この地図が指している場所って、僕が今いるマンションの裏庭じゃないか!
僕はそれに気づいた直後すぐに靴を履いて、パジャマのまま家を飛び出した。
必死で階段を駆け下りる。運動能力が低い僕の体は体力のなさ故にすぐに悲鳴を上げだしたけど、そんなものは知ったことではないとばかりに僕は全力で走り続ける。
エントランスを出て裏庭に回ろうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ルークさんよう。この前はよくもやってくれたな」
「偉そうなあなたも、素体なしじゃこんなものですか。弱いもんですね」
げらげらと下品な笑い声が僕の耳に届く。
そうだ。この声が、これまで倒した怪人たちの声だ。
今すぐ助けるんだ。そして、謝りたい。僕はその一心で駆け出した。